病院Vol.07
新型コロナの5類移行で何が変わったのか?
2023/5/10
新型コロナウイルス感染症が「5類感染症」に移行
季節性インフルエンザ同様の扱いに
2023年5月8日から新型コロナウイルス感染症は「5類感染症」に移行された。同感染症はこれまで「新型インフルエンザ等感染症」に指定され、国民の生命や健康に重大な影響を及ぼす「2類感染症」相当に分類されてきた。患者らは「就業や外出の制限」「入院措置」等の行動制限や入院を強制されるため、費用は公費で賄われ、患者の自己負担はなかった。それが5類に移行することで行動制限等がなくなり、季節性インフルエンザ同様に、患者は医療費を負担(1~3割、高額な治療薬等の費用は9月末まで公費支援)することになる。
1類感染症 | 感染力や罹患(りかん)した場合の重篤性等に基づく総合的な観点からみた危険性が極めて高い感染症。エボラ出血熱、ペスト、ラッサ熱等。 |
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2類感染症 | 感染力や罹患した場合の重篤性等に基づく総合的な観点からみた危険性が高い感染症。結核、SARS、MERS、鳥インフルエンザ(H5N1、H7N9)等。 |
3類感染症 | 感染力や罹患した場合の重篤性等に基づく総合的な観点からみた危険性は高くないが、特定の職業に就業することにより感染症の集団発生を起こし得る感染症。コレラ、細菌性赤痢、腸チフス等。 |
4類感染症 | 人から人への伝染はほとんどないが、動物、飲食物等を介して感染し、国民の健康に影響を与える恐れのある感染症。狂犬病、マラリア、デング熱等。 |
5類感染症 | 国が感染症発生動向調査を行い、その結果に基づいて必要な情報を国民や医療関係者などに提供・公開していくことによって、発生・拡大を防止すべき感染症。季節性インフルエンザ、水痘、手足口病、風疹(ふうしん)、麻疹(ましん)等。 |
新型インフルエンザ等感染症 | 人から人に感染すると認められるが、一般に国民が免疫を獲得しておらず、全国的かつ急速なまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与える恐れがある感染症。新型インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症(2023年5月8日から5類感染症に移行)等。 |
また、これまで都道府県が指定した医療機関、約42,000機関で外来診療を行ってきたが、今後は最大約64,000の医療機関で受け入れる体制に拡大することを目指す。入院患者については、新型コロナウイルス感染症の病床を確保してきた約3,000の医療機関を中心に受け入れてきたが、全国約8,000の全病院で対応できるよう、体制を整備していく方針だ。(参考1)
5類移行で生じるメリット・デメリット
感染対策を個人の判断で引き続き行う必要がある
5類移行前後での主な違いは以下のとおり。
移行前 | 移行後 | |
---|---|---|
新型インフルエンザ等感染症 (2類感染症相当) |
分類 | 5類感染症 |
発熱外来や 指定医療機関 |
対応医療機関 | 段階的に拡大 (幅広い医療機関による対応) |
あり | 医療費や検査費の 公費負担 |
原則自己負担 (高額な治療薬の費用や 入院医療費の一部を公費支援) |
全数把握 (簡略化) |
感染者の把握 | 定点把握 |
原則7日間 | 感染者の 待機期間 |
なし (5日間の療養推奨期間あり) |
原則5日間 | 濃厚接触者の 待機期間 |
なし |
できる | 入院勧告・指示 | できない |
できる | 緊急事態宣言などの 行動制限 |
できない |
5類移行で、待機期間や行動制限等がなくなれば、無症状や軽症の感染者や濃厚接触者は制限なく、日常生活を送れるので、生産活動や経済活動への影響が小さくなる。第一生命経済研究所のレポート(参考2)によれば、2023年に新規感染者が1,000万人発生する前提で試算すると、就労改善と消費改善を合わせて、1.4兆円の経済効果が見込めるそうだ。
その一方で、医療費が自己負担になることで受診を控えたり、無症状や軽症の感染者らが出勤・登校したりすることによって、これまで以上に感染しやすくなるのは明らか。厚生労働省に新型コロナウイルス対策を助言する専門家組織の会合(2023年4月19日開催、参考3)では「第9波」についての指摘があり、日本国内でこれまでの新型コロナウイルスに感染した人の割合が低いなどの理由から、第8波よりも大規模になる可能性があるとの見解が示されている。
5類に移行したからといって、新型コロナウイルスが収束したわけではなく、感染対策を個人の判断で引き続き行っていく必要がある。厚生労働省の専門家組織の会合(2023年3月8日開催、参考3)において、以下の「感染防止の五つの基本」が提言されている。
- (1)体調不安や症状がある場合は、無理せず自宅で療養あるいは受診
- (2)その場に応じたマスクの着用や咳エチケットの実施
- (3)換気、密集・密接・密閉(三密)の回避は引き続き有効
- (4)手洗いは日常の生活習慣に
- (5)適度な運動、食事などの生活習慣で健やかな暮らしを
また、この提言では、「地域での感染症の流行状況に関心を持ち、自らを感染症から防ぎ、身近な人を守る、ひいては社会を感染症から守ることが重要」と指摘。呼吸器疾患は高齢者に対して生命に関わるリスクが高いため「高齢者に感染が及ばないような配慮が重要」としている。
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