働き方改革コラム

病院Vol.08
「医療DX令和ビジョン2030」はデジタル化が遅れる日本を救えるか?

2023/6/7

コロナ禍で日本医療のデジタル化の遅れが顕在化
2022年5月に医療DXを推進するための提言

コロナ禍で日本医療のデジタル化の遅れが顕在化

コロナ禍によって日本における医療のデジタル化の遅れが顕在化した。新型コロナウイルス感染者数の状況把握は難航し、その後、感染状況把握やワクチン接種等のためのシステムが国によって提供されたものの、急造された連携しないシステムが乱立する結果となり、医療機関や医師の負担が増大していった。

システム名 運用開始 内容
HER-SYS
(ハーシス)
2020年5月17日 「新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム」のこと。新型コロナウイルス感染者の情報等を管理。発生届の入力・報告をできる。一般向けには本人や家族の健康状態を入力できるシステムを提供した。
G-MIS
(ジーミス)
2020年5月1日 「医療機関等情報支援システム」のこと。医療機関の稼働状況、病床や医療スタッフの状況、受診者数、検査数、医療機器(人工呼吸器等)や医療資材(マスクや防護服等)の確保状況などを把握できる。
COCOA
(ココア)
2020年6月19日 「新型コロナウイルス接触確認アプリ」のこと。新型コロナウイルス陽性者との接触可能性が通知されるスマートフォンアプリ。2022年11月に停止。
V-SYS
(ブイシス)
2021年2月15日 「ワクチン接種円滑化システム」のこと。医療機関からのワクチンの希望量を受け付け、割当量を決定。これにより国や自治体、医療機関等が情報を共有し、需給調整をする。
VRS 2021年4月12日 「ワクチン接種記録システム」のこと。ワクチン接種対象者の状況を記録。一般向けには新型コロナ接種証明書アプリを提供した。

その反省を踏まえて、2022年5月に自由民主党政務調査会が発表したのが「医療DX令和ビジョン2030」(参考1)だ。これは医療のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するための提言。DXを推進することで、以下のメリットを享受できる。

■患者・国民
  • ・診察や治療の質の向上
  • ・重複検査や投薬の回避
  • ・AI医療等の新技術開発
  • ・新薬の創出
  • ・新しい医療機器の開発
  • ・システム費用低減による国民負担の抑制
■医療関係者・医療機関
  • ・患者情報の共有
  • ・新技術開発による医療サービスの向上
  • ・システム費用の低減
■システムベンダー
  • ・システムエンジニアの業務環境改善
  • ・参入障壁の解消
  • ・医療サービスの高度化に向けて競争する構造改革
■行政
  • ・感染症有事の対策に必要な医療情報の収集機能の強化

DX推進の3つの柱
日本の医療情報の在り方を根本から解決

2022年6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2022(骨太の方針)」(参考2)にも、この提言で言及した、以下のDX推進の3つの柱が明記された。

  • (1)全国医療情報プラットフォームの創設
  • (2)電子カルテ情報の標準化
  • (3)診療報酬改定DX

政府はこれらのDX推進を同時に進めて、日本の医療情報の在り方を根本から解決しようとしている。

「全国医療情報プラットフォーム」とは、医療機関や保険者間で医療情報を共有するための基盤となるシステムを指す。レセプト(診療報酬明細書)請求や保険加入確認のために構築された「オンライン資格確認等システム」のネットワークを発展的に拡充し、レセプト・特定検診情報に加え、ワクチン等の予防接種、電子処方箋情報、自治体検診情報、電子カルテ等の医療全般の情報を共有・交換できる全国的なプラットフォームにすることを提言している。

これを推進するために、2023年4月からオンライン資格確認等システムの導入を、保険医療機関や保険薬局に対して原則義務化。それに併せて、オンライン資格確認を利用する場合の診療報酬や、顔認証付きカードリーダーの導入費用の補助金の見直しを行った。

「電子カルテ情報の標準化」とは、電子カルテのデータ規格を統一し、そのデータを医療機関間で共有・交換できるようにすることを指す。規格には世界で広く利用されている「HL7 FHIR(エイチエルセブン ファイアー)」を採用する方針。2011年にリリースされた「HL7 FHIR」は、米国・HL7協会が策定した、コンピューター間での医療情報のデータ連携を標準化するための国際規格で、WEB通信を前提としている。同規格の特長は「RESTful APIに基づく柔軟性」「実装が容易」「セキュリティに配慮した設計」などが挙げられる。これにより、医療機関が異なる電子カルテシステムを導入していても、患者の診療記録を共有できるようになる。

「診療報酬改定DX」とは、診療報酬改定に伴う医療機関の負担を軽減し、診療報酬の算定を、より効率的に行うためのデジタル化の取り組みを指す。診療報酬改定は原則2年に1度行われ、診療の提供内容や費用を変更するもの。3月に改定内容が確定し、4月から施行されるため、電子カルテやレセコン(レセプトを作成するソフトウェアのこと)を提供するシステムベンダーは、わずかな時間で、システムの膨大な更新作業を行う必要がある。

このような状況において、2023年4月に厚生労働省が発表した診療報酬改定DXへの対応方針(参考3)によれば、「共通算定モジュールの開発・運用」「共通算定マスタ・コードの整備と電子点数表の改善」「標準様式のアプリ化とデータ連携」「診療報酬改定施行時期の後ろ倒し等」を推進するという。デジタル技術の活用で、システムベンダーの作業負担を減らし、それによって軽減される費用を医療機関への提供料金に還元する狙いだ。

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