働き方改革コラム

病院Vol.09
医師の健康確保と医療提供体制の維持は両立できるのか?

2023/12/8

特例水準の適用で年1,860時間の時間外労働が可能だが
これは過労死ラインの約2倍の水準

特例水準の適用で年1,860時間の時間外労働が可能だがこれは過労死ラインの約2倍の水準

日本医師会が2023年11月29日に発表した、医師の働き方改革と地域医療への影響に関する調査結果(参考1)によれば、病院(20床以上)は、医師の時間外労働の上限規制が施行される2024年4月以降について、「宿日直体制の維持が困難」、「派遣医師の引き上げ」、「救急医療の縮小・撤退」を懸念事項の上位に挙げている。医師の健康を確保するための働き方改革ではあるが、その一方で担い手が不足している救急医療や地域医療の維持も必要。担い手となる医師が急に増えるわけもなく、時間外労働時間を規制すれば、おのずと医療提供体制の質への懸念が生じるのもうなずける。

自院の医療提供に懸念される事項(病院)

2024年4月以降、救急医療については、特例水準「B水準」に含まれ、医療機関が条件を満たし、「医療機関勤務環境評価センター」による第三者評価を受けて、都道府県からの指定を得れば、対象医師に対して、時間外労働の上限、年1,860時間が適用される。

▽B水準
3次救急医療機関や、救急車の受け入れが年1,000台以上などの要件を満たす2次救急医療機関、在宅医療で積極的な役割を担う医療機関などが該当する。

また、医師の派遣は大学病院が重要な役割を担っており、地域医療体制の維持には欠かせない。国立大学病院長会議の記者会見において発表された2022年度の調査結果(参考2)によれば、全国の42の国立大学病院は、全体で9,628カ所の医療機関に医師を派遣し、1病院あたり平均で229カ所、最大で785カ所にもなるそう。派遣される医師は2024年4月以降、特例水準「連携B水準」に該当し、副業・兼業先での労働時間を通算して、時間外労働の上限を年1,860時間までとすることができる。

▽連携B水準
自院での上限は年960時間だが、副業・兼業先での労働時間を通算して上限を年1,860時間とするもの。医師の派遣を通じて、地域の医療提供体制の確保に必要な役割を担う医療機関が該当する。

ただし、そもそも年1,860時間の時間外労働は、過労死ラインと言われる月80時間、年換算で960時間の約2倍に相当する。「B水準」「連携B水準」を含む特例水準は、個々の医療機関の特性、地域性等を鑑みて、2024年4月の段階で一律に「A水準」(時間外労働時間が年960時間、月100時間未満)を適用するのが難しいことから設けられた。2035年度末までに解消することを目標としているが、暫定的な措置とはいえ、一部の医師の、過酷な長時間労働のもとに、救急医療や地域医療が成り立っている状況はしばらくは変わらないと言える。

タスク・シフト/シェアを成功させるには
「医療DX」による医療チーム全体での業務の縮減が必要

このような状況を改善するためには、医師の業務負担を減らす必要があり、「タスク・シフト/シェア」の推進が求められる。タスク・シフト/シェアについては、厚生労働省の「タスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」(参考3)において、実施可能な業務などが示されている。移管先は助産師、薬剤師、診療放射線技師、臨床工学技士、看護師、臨床検査技師、医師事務作業補助者などを挙げている。

単に業務を移管するだけでは解決しない現実もある。移管先にも本来の業務があり、看護師、助産師などもまた人手不足に苦しむ職種なのだ。タスク・シフト/シェアを成功させるには、各職種の専門性を生かし、効率的かつ安全な医療サービスを提供するための体制を整える必要がある。そのためにも医療チーム全体での業務の縮減が重要。そこで「医療DX」による業務の効率化がクローズアップされる。

医療DXの具体的な例としては、以下のものが挙げられる。

▽勤怠管理のデジタル化
勤怠管理のソフトウェアやタイムカードシステムを導入することで、勤務時間の客観的な把握や勤務環境改善に取り組む意識の向上が期待できる。これにより、勤務時間の正確な管理と労働時間の適正化が図れる。
▽電子カルテシステムの活用
スマートフォンやタブレットと電子カルテシステムを連携させることで、場所に捉われずに電子カルテの閲覧や入力が可能になる。これにより、院外からでも電子カルテの閲覧ができ、オンコール時の出勤回数の削減や時間外手当の削減が期待できる。
▽音声入力ソフトの利用
書類作成時間を削減するために音声入力ソフトを使用することで、カルテの記録に要する時間の削減や、治療等、本来の業務に従事する時間の増加が見込める。
▽AI問診の導入
AIを活用した問診システムを導入することで、問診に要する時間の削減や患者とのコミュニケーション時間の増加が期待される。また、遠隔の専門医との相談体制を確保することによる精神的負担の軽減や医師の夜間呼び出し回数の削減にもつながる。
▽オンライン診療システム
オンライン診療システムを用いることで、移動時間の短縮や柔軟な働き方の確保が可能になり、人材定着にも寄与する。
▽Web会議システムやSNSの活用
多職種間のコミュニケーションを円滑にするために、Web会議システムやグループチャットを活用することで、繁忙時の連絡調整に要する時間的・精神的負担の軽減が期待される。

医師の働き方改革を実現するためには、医療DXの推進により、医療チーム全体の業務を効率化し、医師の健康確保と医療提供体制の維持の両立を進めていく必要があるだろう。

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