介護職の離職率は本当に高い? 最新データと下げるための対策を解説
2026/10/21

介護職は「離職率が高い」というイメージを持たれがちだが、最新のデータを見ると、実際にはそのイメージとは異なる実態が見えてくる。人材の定着に悩む介護事業所にとって、正確な現状把握は対策の第一歩になる。
本記事では、公的データをもとに介護職の離職率の実態や推移、他業界との違いを解説する。さらに、主な離職理由や国・事業所が行っている対策、離職率を下げるための具体策まで分かりやすく紹介する。自施設の離職防止や職員の定着率向上に役立ててほしい。
(1)介護職の離職率の実態
「介護職は離職率が高い」というイメージは根強いが、実際の数値を正確に把握できている人は少ないだろう。ここでは、最新の公的データをもとに離職率の実態を整理する。
・最新の離職率は12.7%で3年連続の低下
公益財団法人介護労働安定センターが発表した「令和7年度介護労働実態調査結果」によると、介護職員(訪問介護員を除く)の離職率は12.7%で、前年度の12.8%から低下し、3年連続の低下となった。訪問介護員と介護職員を合わせた2職種計の離職率は12.4%で、前年と同水準を維持し、調査開始以来の最低水準が続いている。なお、2職種計の離職率は2015年度の16.5%から4.1ポイント低下しており、この10年間で改善傾向がみられる。
・他業界と比べて介護職の離職率が特に高いわけではない
厚生労働省の雇用動向調査によれば、全産業の一般労働者の離職率が11.4%であるのに対し、介護職を含む「医療・福祉」の離職率は13.6%となっている。「宿泊業、飲食サービス業」(21.5%)や「サービス業(他に分類されないもの)」(20.3%)など、医療・福祉より離職率が高い業界も複数あることから、「介護業界の離職率が特に高い」とは言い切れない状況である。
・施設形態や職種別に見る離職率の違い
介護労働安定センターの「令和6年度介護労働実態調査結果」によれば、2職種計の離職率は、介護老人福祉施設(特養)で12.3%、介護老人保健施設(老健)で11.7%である一方、特定施設入居者生活介護事業所(介護付き有料老人ホームなど)では15.1%、認知症対応型共同生活介護事業所(グループホーム)では13.9%と、施設形態によって差がみられる。
また、職種別に見ると看護職員の離職率が15.9%と、訪問介護員・介護職員を含む全職種の中で最も高い結果となっている。人員配置基準や勤務体制が施設形態ごとに異なることも、こうした差が生まれる背景の一つと考えられる。
(2)介護職が離職する理由
離職率そのものは低下傾向にあるものの、依然として一定数の離職は発生している。ここでは、その主な理由を整理する。
・最多の理由は「職場の人間関係」
介護労働安定センターの「令和7年度介護労働実態調査結果」によれば、転職前も介護関係の仕事をしていた人の転職理由で最も多かったのは「職場の人間関係に問題があったため」(27.3%)であり、「収入が少なかったため」(15.7%)を大きく上回っている。
同調査では、職場定着や離職防止の方策として効果があったものとして、「人間関係が良好な職場づくり」が上位に挙がっており、人間関係が介護職の定着を左右する重要な要素であることがうかがえる。
・給与・待遇や将来展望の見えにくさ
人間関係に次いで、給与や待遇への不満、そして役職や賃金上昇の見通しが立たないといった「将来展望の見えにくさ」も、離職理由として挙げられることが多い。キャリアアップの道筋や評価基準が不明確な職場では、資格を取得しても将来の展望を描きにくく、離職を検討する要因の一つになると考えられる。
(3)介護職の離職率の改善が進んできた背景
離職率の改善が進んできた背景には、国と事業所、双方の取り組みがある。ここでは、代表的な取り組みを紹介する。
・国が進める処遇改善加算や人材確保策
国は、介護ロボットやICTの活用推進や、キャリアアップのための研修受講の負担軽減、そして処遇改善加算による給与アップなどに取り組んでいる。
2024年6月施行の介護報酬改定では処遇改善加算の見直しが行われ、2024年度に2.5%、2025年度に2.0%のベースアップを行うことが目標として掲げられた。こうした施策は、離職率改善の一因になっていると考えられる。
また、2026年度の介護報酬改定では、処遇改善加算の対象を介護職員のみから介護従事者へ拡大するとともに、訪問看護や訪問リハビリテーション、居宅介護支援等にも新たに処遇改善加算が設けられた。事業所側にとっても、こうした制度を活用しながら職員の処遇改善を進めることが、定着率向上につながるだろう。
・事業所が行っている定着支援策
レバウェル株式会社の調査レポート「きらケア介護白書2022」によれば、「定着率向上のために何かしらの取り組みをしている」と回答した介護事業所は全体の93.6%に上る。具体的には、「給与や待遇の改善」「有給休暇の取得奨励」「時間外労働の削減」といった労働環境の改善に加え、「上司や人事などとの定期的な面談」「教育や育成の強化」といった仕事面のフォローも行われている。
(4)介護職の離職率を下げるために事業所が行うべき具体策
(3)で紹介したように、離職率の改善に向けて国や事業所によるさまざまな取り組みが進められている。その中でも、職員の定着率向上において重要なのは、事業所が主体となって働きやすい職場環境を整備することである。
介護職の離職率を下げるには、賃金面の改善だけでなく、職員が安心して長く働ける職場環境を整備することが重要である。将来のキャリアをイメージできる仕組みや、成長を支える教育制度、働きやすい勤務環境など、さまざまな面から取り組む必要がある。
ここでは、介護職の定着につながる具体的な職場づくりの方法を紹介する。
・キャリアパスを整備して将来像を見えるようにする
職員に長く働いてもらうには、その事業所でどのように成長できるのかを分かりやすく示すことが大切である。そのためには、職員が目標に到達するまでの道筋である「キャリアパス」を整備する必要がある。
例えば、職位や役割ごとに必要なスキルや資格、仕事内容、給与などを明確にし、書面などですべての職員に共有する。将来の姿が見えれば、「この先どう成長すればよいのか分からない」という不安を減らせる。自分の成長をイメージしながら働けることは、定着率の向上にもつながる。
・教育・研修と資格取得の支援を充実させる
教育や人材育成は、新人だけでなく、すべての職員に必要である。特に未経験者や経験の浅い職員には、入職後に安心して仕事を覚えられる教育体制が重要である。入職時の説明や業務の進め方、先輩職員によるサポートなどを整えておくと、職場に馴染みやすくなる。
また、経験やキャリアに合わせて、次のような研修を受けられる環境を整えることも大切である。
- ‐資格取得のための研修
- ‐リーダー向け研修
- ‐マネジメント研修
- ‐認知症ケアに関する研修
- ‐かくたん吸引などの専門研修
職員が「もっと成長したい」と思ったときに学べる環境があれば、仕事への意欲を保ちやすくなる。ただし、資格取得やスキルアップだけを進めれば、必ず定着率が上がるわけではない。育成と同時に、「この事業所で働き続けたい」と思える環境をつくることも重要である。
・事業所の理念を明確にし、職員の帰属意識を高める
介護施設によって、求める人物像や大切にしている考え方は異なる。採用した人材と施設が求める働き方にズレがあると、現場での摩擦が起こりやすくなる。
こうしたミスマッチを減らすには、事業所の理念や大切にしている価値観を明確にすることが重要である。採用の段階から理念や働き方を伝えておけば、「思っていた職場と違った」というミスマッチを防ぎやすくなる。
さらに、入職後も理念を共有する機会をつくることが大切である。例えば、職員同士の交流イベントや事例発表会などを通じて、理念を実際の仕事と結びつけて考えられるようにする。
「何のために働くのか」を職員と事業所で共有できれば、自分の成長と事業所の成長を重ねて考えやすくなる。これが職員の帰属意識を高め、離職防止の土台となる。
・働きやすい労働環境を整える
「休みを取りにくい」「勤務時間が長い」「夜勤の負担が大きい」といった働き方の問題は、離職につながる原因の一つである。そのため、職員の生活に合わせて働ける環境を整えることが重要である。
具体的には、次のような取り組みが考えられる。
- ‐時短勤務制度を導入する
- ‐休暇や休業制度を充実させる
- ‐休憩時間を確保する
- ‐夜勤や休日出勤の負担を減らす
- ‐子育てや家族の介護と両立しやすい勤務体制をつくる
- ‐パート・アルバイトなどへの雇用形態の変更を可能にする
- ‐事業所内託児所を設置する
人員不足などによって勤務体制の改善が難しい場合は、夜勤手当などの手当を見直す方法もある。職員が働いた分に見合った待遇を受けていると感じられることは、仕事への納得感を高めることにつながる。
・公正な評価と処遇を行う
職員が「頑張っても評価されない」と感じる職場では、仕事への意欲を保ちにくい。そのため、職員一人ひとりの努力や成果を適切に評価し、仕事に見合った処遇を行うことが重要である。特に管理者には、職員を公平に評価し、成長を支援する役割が求められる。
そのため、管理者向けに次のような研修を行うのも有効である。
- ‐マネジメントの基礎
- ‐職員の育成方法
- ‐人事評価の方法
- ‐メンタルヘルスの基礎
管理者が職員とのかかわり方や評価の方法を学ぶことで、現場のコミュニケーション改善にもつながる。また、若手・中堅・リーダーなど、役割に合わせた階層別研修を行うことも有効である。それぞれの立場に必要な知識や役割を学ぶことで、職員同士の共通理解をつくりやすくなる。
・定期的な面談や相談の場を設ける
職員は、ある日突然「辞めたい」と考えるとは限らない。仕事への小さな不満や不安が積み重なり、離職を考えるケースもある。そのため、問題が大きくなる前に職員の声を聞く仕組みをつくることが重要である。
例えば、次のような方法がある。
- ‐定期的な個人面談
- ‐相談窓口の設置
- ‐メンター制度
- ‐入職後のフォロー面談
- ‐職員アンケート
「困ったときに相談できる」という安心感があれば、一人で悩みを抱え込むことを防ぎやすい。特に新人職員は、仕事や人間関係について悩みを抱えやすいため、入職直後だけでなく、一定期間が経った後も継続してフォローすることが大切である。
(5)介護職の離職率に関するよくある質問
Q1.自施設の離職率が高いかどうかは、何と比べればよいのでしょうか?
自施設の離職率を評価する際は、主に3つの比較軸があります。1つ目は全国平均で、訪問介護員と介護職員を合わせた離職率は12.4%(2025年度)です。2つ目は職種別の水準で、看護職員14.6%、サービス提供責任者7.8%と職種差が大きいため、同一職種で比べる必要があります。3つ目は年齢階層別の水準で、29歳以下の離職率は17.3%とほかの年齢層より高く、若手が多い職場では全体の離職率が押し上げられます。
Q2.離職率を下げるために、まず何から手をつけるべきでしょうか?
まずは、自施設の離職状況を把握することから始めましょう。離職率の推移を確認するとともに、どの職種・年代・勤続年数の職員が離職しているのかを分析することが重要です。
介護労働安定センターの介護労働実態調査では、「職場の人間関係」が主な離職理由として挙げられていますが、施設ごとに実際の課題は異なります。夜勤負担やシフトの組み方、教育体制の不足、特定部署への業務負荷の偏りなどが要因となっているケースもあります。
退職者面談の記録や職員アンケートなどを活用して、自施設の離職理由を分析した上で優先順位をつけて対策を講じることが、離職率改善への第一歩です。
Q3.賃金を上げれば離職率は下がりますか?
賃金の引き上げは有効ですが、効き方が異なる点に注意すべきです。介護労働安定センターの介護労働実態調査によれば、対策を実施している事業所のうち「採用に効果があった」とする割合が最も高いのは「賃金水準の向上」(38.4%)である一方、「職場定着に効果があった」で最も高いのは「有給休暇等の各種休暇の取得や勤務日時の変更をしやすい職場づくり」(57.9%)、次いで「人間関係が良好な職場づくり」(54.6%)となっています。
この結果から、賃金水準の向上は採用面への効果が大きく、一方で休暇の取得しやすさや良好な人間関係は、職員の定着に大きく影響することが分かります。
(6)まとめ
介護職の離職率は低下傾向にあり、他業界と比較しても特に高い水準にあるとは言えない。離職理由としては給与よりも「職場の人間関係」が上位に挙げられており、国・事業所双方の取り組みによって着実に改善が進んでいる。
介護職の離職を防ぎ、定着率を高めるには、職員が安心して働き続けられる環境を整えることが重要である。特に、職場の人間関係や給与・待遇、キャリアの見通しなど、職員が抱える悩みに合わせた対策が求められる。
また、離職率を下げるための取り組みを継続するには、職員情報や勤務状況、休暇取得状況、面談記録などを継続的に把握できる体制づくりも重要である。人事労務管理システムを活用すれば、こうした情報を一元管理しやすくなり、職員の状況把握や適切なフォローにも役立つ。
介護職の離職率を下げるには、単に職員を引き留めるのではなく、「ここで成長したい」「安心して働き続けたい」と思える職場をつくることが重要である。自施設の課題を把握し、必要な職場改善と人事労務管理の仕組みづくりを進めていくとよいだろう。
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