介護人材の確保はなぜ難しい? 事業所が今すぐできる採用・定着のポイントを解説
2026/11/4

介護人材の確保に苦戦している事業所は少なくない。「求人を出しても応募が集まらない」「採用できても定着しない」といった課題を抱える中で、人手不足への対応は介護事業所の運営を左右する重要な経営課題となっている。
しかし、人材確保が難しい背景には、単なる採用活動の問題だけではなく、介護業界を取り巻く構造的な要因も存在する。本記事では、公的データをもとに介護人材確保の現状を整理した上で、人材確保が難しい理由、国が進める対策、事業所が実践できる採用・定着施策について解説する。ぜひ、自社の採用・定着戦略の参考にしてほしい。
本記事のポイント
人材不足は今後も深刻化
2040年度までに約57万人の介護人材が必要とされます。
採用難には構造的な要因がある
賃金、人間関係、キャリア形成が課題となっています。
採用と定着は別々に考える
採用施策と定着施策を課題に応じて使い分けましょう。
(1)介護人材確保の現状と必要性
介護人材の確保は、介護事業所の安定した運営に直結する重要な課題である。その背景には、介護業界全体の需給ギャップという構造的な問題が存在している。まずは公的データをもとに、介護人材確保の現状について確認していこう。
・2040年度に向けて約57万人の増員が必要
厚生労働省の推計では、介護職員数は2022年度の約215万人から、2026年度には約240万人、2040年度には約272万人へ拡大する必要があるとされている。つまり、2022年度と比較して2040年度までに新たに約57万人の介護職員を確保する必要があると推計される。高齢化がさらに進展する中、介護業界では今後も人材確保への対応が重要な課題になると見込まれる。
一方で、2024年10月1日時点の介護職員数は約212.6万人と、前年から横ばいで、2年前と比べると3万人近く減少している。必要数の増加ペースに供給が追いついていないのが実情である。
・有効求人倍率の高さと地域差
厚生労働省の資料によると、2025年3月時点の介護関係職種の有効求人倍率は全国平均で3.97倍と、全職業平均の1.16倍を大きく上回っている。都道府県別に見ると、東京都が7.65倍と突出して高く、埼玉県・千葉県・神奈川県・愛知県・大阪府なども高い水準にあり、人口が集中し高齢化も進む都市部ほど人材確保の競争が激しくなっている。
介護関係職種の有効求人倍率は上昇傾向にあり、介護分野における人材獲得競争は今後さらに激化していくと考えられる。
(2)介護人材確保が難しい3つの理由
介護人材の確保に苦戦する背景には、単に「応募が集まらない」というだけでなく、いくつかの構造的な原因がある。ここでは、人材確保を難しくしている代表的な要因を整理する。
・業務負担と賃金水準のギャップ
2025年の介護職員の平均給与額は31.4万円であるのに対し、全産業平均は39.6万円、実に約8万円の開きがある。介護職は身体的・精神的な負担が大きいにもかかわらず、平均給与額は全体より低い水準にとどまっている。
介護事業所の収入は介護報酬制度の影響を大きく受けるため、企業の判断だけで大幅な賃上げを行うことは容易ではない。こうした「業務の難しさに見合わない賃金」というギャップが、人材確保における大きな課題となっている。
・職場の人間関係やライフイベントとの両立の難しさ
介護現場は年齢や職種、経験年数が異なる職員が働く職場環境であることに加え、密なコミュニケーションが求められる対人援助職の特性から、人間関係にストレスを感じる人も少なくない。
さらに、土日勤務や夜勤が発生するため、子育てや家族の介護との両立が難しい。柔軟な働き方を実現できない環境では、特に女性や中高年層が就業を継続しにくくなる。公益財団法人介護労働安定センターの調査でも、離職理由の上位に職場の人間関係やライフイベントとの両立の難しさが挙げられている。
・キャリアパスの不透明さ
他業種に比べて給与水準が低いことに加え、キャリアアップの仕組みが整備されていない職場が多いことも、人材確保を難しくする一因である。「資格を取得しても昇給しない」「将来的なキャリアパスが見えない」と感じれば、長期的に同じ施設で働く動機を見失い、人材流出につながる。採用側は求人の時点でキャリアパスや昇給のルートを明確に示し、長期的に働くイメージを持ってもらう工夫が求められる。
(3)国が進める介護人材確保対策
こうした課題に対応するため、国も総合的な対策を進めている。ここでは、国が掲げる介護人材確保対策の全体像と、活用できる支援制度を紹介する。
・介護人材確保対策の主な取り組み
厚生労働省は、介護人材を量と質の両面から確保するため、国と地域が連携しながら総合的な人材確保対策を進めている。主な取り組みは以下の5つである。
①介護職員の処遇改善
介護人材の確保・定着を図るため、介護職員等処遇改善加算の運用や賃金改善を通じて、働きに見合った処遇の実現を推進している。
②多様な人材の確保・育成
介護未経験者向けの入門的研修や修学資金貸付制度などを通じて、新たな人材の参入促進と人材育成を支援している。
③離職防止・定着促進・生産性向上
介護ロボットやICTの導入支援、多様な働き方の推進などにより、職員が働きやすい環境づくりと業務効率化を進めている。
④介護職の魅力向上
イベントやSNSなどを活用した情報発信を行い、介護の仕事に対する理解促進と社会的評価の向上を図っている。
⑤外国人材の受け入れ環境整備
学習支援や生活支援、資格取得支援などを通じて、外国人介護人材が安心して就労できる環境整備を進めている。
・活用できる研修や支援制度
未経験者や異業種からの人材確保を後押しするため、国や自治体ではさまざまな研修・支援制度を実施している。例えば、「介護に関する入門的研修」では、介護の基礎知識や技術を学ぶことができ、介護分野への就職を目指す人の不安軽減や円滑な職場定着につながることが期待されている。
また、資格取得を支援する制度も整備されている。雇用保険の教育訓練給付制度では、講座区分や受給要件に応じて受講費用の一部が給付される。介護職員初任者研修や実務者研修をはじめ、介護分野のさまざまな講座が対象となっている。
さらに、介護事業所向けには介護職員等処遇改善加算や介護ロボット・ICT導入支援などの施策も用意されており、人材確保や職場環境の改善を後押ししている。
- ※参考:[厚生労働省]教育訓練給付金
(4)介護事業所が実践できる採用手法
国の制度を活用しながら、事業所も採用手法を工夫する必要がある。ここでは、代表的な採用手法とその特徴を紹介する。
・採用手法の使い分け
求人サイトは幅広い求職者にリーチできる一方、未経験者や他業種からの応募も多くミスマッチが生じやすいため、介護職専門の求人サイトの活用や、求人原稿の工夫が欠かせない。
ハローワークは無料で掲載できる「母集団形成の入口」として有効だが、求人票だけでは職場の魅力を伝えにくいため他施策との組み合わせが必要である。即戦力を求める場合は人材紹介会社(転職エージェント)、期間限定の人員確保には人材派遣というように、目的に応じて手法を使い分けることが重要である。
・リファラル採用や自社サイトでの魅力発信
現職員からの紹介によるリファラル採用は、事前に職場の雰囲気を聞けるため入職後のギャップが小さく、定着率が高い傾向にある。また、自社の採用ページやSNSを活用して、働く人の声や施設の雰囲気を発信することも、求人サイトだけでは接点を持ちにくい求職者へのアプローチとして有効である。
いずれの手法も、「だれに向けて発信するか」というターゲット設定と、自社の強み・特徴を整理した上で取り組むことが成果につながるカギとなる。
(5)採用と定着では、効果的な施策が異なる
介護労働実態調査では、事業所が実施している採用・定着施策について、「採用に効果があった」割合と「職場定着に効果があった」割合がそれぞれ集計されている。この結果からは、人材確保の課題に応じて取り組むべき施策が異なることが分かる。
採用に効果があった割合が最も高いのは「賃金水準の向上」で38.4%である。次いで、「有給休暇等の各種休暇の取得や勤務日時の変更をしやすい職場づくり」が28.6%となっている。
一方、職場定着に効果があった割合が最も高いのは「有給休暇等の各種休暇の取得や勤務日時の変更をしやすい職場づくり」で57.9%である。次いで、「人間関係が良好な職場づくり」が54.6%となっている。
この結果から、「賃金水準の向上」は採用面で効果が高く、「人間関係の改善」は職員の定着に効果が高い傾向があることがわかる。一方で、「休暇の取りやすさ」は採用・定着の両方で上位に挙げられており、双方に効果が期待できる施策と言える。
自施設の課題が「応募が集まらない」のか、それとも「採用しても定着しない」のかを見極めた上で施策を選択することが重要である。限られた予算や人的リソースを有効活用するためにも、自施設の課題に合った取り組みを優先的に進めるのがよいだろう。
(6)介護人材確保に関するよくある質問
Q1.採用手法は複数を併用すべきでしょうか、それとも一つに絞るべきでしょうか?
複数の採用手法を組み合わせながら採用活動を行うことが一般的です。介護労働実態調査によれば、「職員に対して友人・知人などの紹介を依頼している」が66.0%、「ハローワークや福祉人材センターの担当者に相談している」が64.8%となっており、こうした採用手法は多くの事業所で活用されています。
ただし、手当たり次第に手法を増やすことはおすすめできません。運用負担が大きくなり、十分な成果につながらない場合があるためです。例えば、自社ホームページでの情報発信は実施率が36.8%である一方、「効果があった」とする割合は24.4%にとどまっています。これは発信そのものの問題というより、採用導線や情報設計が十分でないケースが多いためと考えられます。
まずはリファラル採用とハローワーク活用という基本的な手法を安定的に運用し、そのうえで、即戦力人材を確保したい場合は人材紹介、若年層へのアプローチを強化したい場合は求人サイトを活用するなど、目的に応じて手法を追加していくことが現実的です。
Q2.未経験者を採用する場合、何を準備しておくとよいでしょうか?
未経験者を採用する場合は、入職後の教育体制を事前に整えておくことが重要です。
介護職の離職理由として最も多いのは「職場の人間関係に問題があったため」です。その理由としては、「上司や先輩からの指導や言動がきつかったり、パワーハラスメントがあった」が最も多く挙げられています。未経験者の場合、こうした指導の場面でのつまずきが早期離職につながりやすいため、教育担当者の配置や育成方針の明確化が欠かせません。
また、国や自治体では「介護に関する入門的研修」や資格取得支援制度を実施しています。さらに、雇用保険の教育訓練給付制度の対象講座であれば、受講費用の補助を受けられる場合もあります。
採用時には、「入職後にどのような研修を受講し、どのようなキャリアを目指せるのか」まで具体的に示すことで、応募者に安心感を与えやすくなります。
Q3.求人を出しても応募が集まらない場合、まず何を見直すべきでしょうか?
まずは求人原稿の内容を見直してみましょう。
介護労働実態調査によると、介護職員が現在の法人を選んだ理由として最も多かったのは「通勤が便利だから」で、回答者の半数以上を占めています。これに続いて、「職場の人間関係がよさそうだったため」や「自分のやりたい介護ができそうだったため」が挙げられています。
さらに、勤続1年未満の職員に限ると、「職場の人間関係がよさそうだったため」「自分のやりたい介護ができそうだったため」「時間外労働が少ないため」の割合が全体より高くなっています。最近の求職者は給与だけでなく、通勤のしやすさ、職場の雰囲気、働きやすさなどを重視して応募先を選ぶ傾向があります。
そのため、求人原稿にはこうした情報を具体的に記載することが大切です。「アットホームな職場です」といった抽象的な表現だけでなく、最寄駅からの所要時間、平均残業時間、有給休暇取得率などの客観的な情報を示すことで、応募を検討している人の判断材料になります。
(7)まとめ
介護人材の確保が難しい背景には、高齢化による需要の増加や人材不足の深刻化だけでなく、賃金水準と業務負担のギャップ、人間関係や働き方の課題、キャリアパスの不透明さといった構造的な要因がある。
こうした課題に対応するため、国は処遇改善や人材育成、ICT導入支援などの総合的な施策を進めている。しかし、人材確保の成否を左右するのは、最終的には各事業所の取り組みである。
採用面では、求人媒体やハローワーク、リファラル採用などを目的に応じて活用し、自事業所の魅力を適切に発信することが重要である。一方、定着面では、休暇の取りやすさや良好な人間関係の構築、教育体制の整備など、職員が長く働き続けられる環境づくりが欠かせない。
人材確保には即効性のある特効薬はない。しかし、自事業所の課題を正しく把握し、採用と定着の両面から着実に改善を積み重ねることで、人材不足のリスクを軽減することは可能である。本記事で紹介した考え方や施策を参考に、自事業所に合った人材確保の取り組みを進めてほしい。
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