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「2024年問題」から見る建設業の働き方改革 制度対応と人材確保の課題整理

2025/11/5

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「2024年問題」から見る建設業の働き方改革 制度対応と人材確保の課題整理

2024年4月、建設業における働き方改革の猶予期間が終了し、時間外労働の上限規制が本格的に適用された。これにより、長時間労働が常態化していた建設業界も、他産業と同様に労働時間の管理が厳格に求められるようになった。

制度施行から1年以上が経過し、現場では対応の遅れや制度への理解不足による課題も浮き彫りになっている。企業には、勤怠管理の精度向上や工期設定の見直しなど、持続可能な働き方を実現するための取り組みが求められている。

本記事では、「2024年問題」と呼ばれる制度改革の背景と影響を整理し、建設業界が直面した課題と、それに対する具体的な取り組みについて解説する。

(1)建設業の働き方改革「2024年問題」とは

建設業では、2024年4月に「働き方改革関連法」の猶予期間が終了し、時間外労働の上限規制が本格的に適用された。これにより、従来の長時間労働が常態化していた労働環境を見直す必要に迫られ、業界全体に大きな影響を及ぼしている。

ここでは、「2024年問題」と呼ばれる制度改革の概要と、それによって浮き彫りになった建設業界の構造的課題について整理する。

時間外労働の上限規制割増賃金率引き上げ

これまで建設業では、「36協定」を締結して届出を行えば、実質的に時間外労働に上限がなく、長時間残業が可能な状態であった。

しかし、働き方改革関連法の施行により、2024年4月からは建設業にも罰則付きの時間外労働の上限規制が適用され、労働時間の管理が厳格に求められるようになった。

また、労働基準法の改正により、2023年4月からは企業規模にかかわらず、月60時間を超える時間外労働に対して50%の割増賃金の支払いが義務づけられている。

建設業特有の人材不足と高齢化の現状

建設業は慢性的な人材不足という課題を抱えている。少子化の進行と若年層の離職率の高さにより、業界の高齢化が加速している。

2020年時点では、建設業の就業者のうち55歳以上が36.0%を占めており、29歳以下の若年層はわずか11.8%にとどまっている。さらに、2021年に高卒で建設業に就職した若者のうち、3年以内に離職した割合は約43.2%であり、これは全産業平均の38.4%を上回る水準である。こうした数字は、若年層の定着の難しさを示している。

一方、建設業では高齢化が進んでおり、団塊の世代(1947年から1949年生まれ)はすでに定年を迎えているものの、2025年には75歳以上になり、熟練技能者の本格的な引退が進むとされている。

これにより、建設業の人手不足は今後さらに深刻化することが予想される。

若年層の定着と育成こそが、業界の持続的な発展のために喫緊の課題である。

建設業の長時間労働が常態化する要因

建設業では、全産業と比較しても長時間労働が常態化しており、出勤日数も多い傾向にある。厚生労働省が発信する、働き方改革総合サイト「はたらきかたススメ」によれば、2024年の建設業の年間実労働時間は全産業平均より48時間長く、出勤日数も11日多いという結果が出ている。

働き方改革の取り組みにより改善傾向は見られるものの、依然として長時間労働の状況は続いている。週休2日を十分に確保できていない工事もあり、休日の確保が難しいことも課題である。

こうした働き方は、体力的・精神的な負担が大きく、若年層の離職率を高める一因になっている。また、人手不足に加え、発注元からの短納期要請に応じようとすることで、労働密度が高くなる傾向もある。制度が整備された今こそ、これらの根本的な要因に目を向け、持続可能な働き方の実現に向けた取り組みが求められている。

(2)建設業の働き方改革を推進する具体的な取り組み

建設業界は長年にわたり、長時間労働や休日の少なさといった課題を抱えてきた。2024年4月に時間外労働の上限規制が適用されたことで、他産業と同様の水準での働き方改革が求められるようになり、企業や現場では対応の取り組みが進められている。

ここでは、建設業における働き方改革を推進する具体的な取り組みについて解説する。

勤怠管理の徹底と適正な工期設定の重要性

時間外労働の上限規制に対応するためには、勤怠管理の正確性が極めて重要である。従来のような日報やタイムカードによる手作業の勤怠管理では、報告漏れや代理打刻といった問題が発生しやすく、労働時間の実態を正確に把握することが困難であった。

そのため、勤怠管理のシステム化は喫緊の課題であり、現在では多くの企業がデジタルツールの導入を進めている。

厚生労働省は、労働時間の適正な把握のために、始業・終業時刻の確認と、適正な記録の実施を求めている。自己申告制を採用する場合でも、必要に応じて実態調査を行い、労働時間を補正する必要がある。

また、適正な勤怠管理と並んで重要なのが、発注工事ごとの特性を踏まえた適正な工期設定である。発注者と受注者が協力して工期を設定するための支援として、国土交通省が提供する「工期設定支援システム」が公共工事において推奨されており、地方自治体に公開されている。

週休2日制導入の取り組み

国土交通省の「建設業働き方改革加速化プログラム」(以下、加速化プログラムという)では、公共工事における週休2日制の導入を後押ししている。労務費等の補正の導入に加え、共通仮設費や現場管理費の補正率の見直しが提言されており、制度面からも週休2日制の定着を支援する動きが進んでいる。

・ICTやIoTの活用による生産性向上とDX推進

建設業における働き方改革を加速させるには、ICT・IoTの活用による生産性向上が不可欠である。パソコンやスマートフォン、タブレット端末を活用することで、従来の手作業を自動化し、ミスの削減と作業時間の短縮が可能になる。

これにより、経営者は現場巡回や新規取引の獲得など、より付加価値の高い業務に労働リソースを振り分けることができる。加速化プログラムではICT活用を推進するとともに、積極的に取り組む建設企業に対しては、相応の評価を行う姿勢が示されている。

また、「建設リカレント教育」など、教育機関と建設業団体が連携し、技能や技術の学び直しを支援する取り組みも進められている。

(3)建設業の人材確保と魅力ある職場づくりへの道筋

少子高齢化により労働力不足が進行する中、建設業における人材確保には、安定した雇用環境の整備、明確なキャリアパスの提示、そして従業員が安心して働ける制度の構築が不可欠である。ここでは、人材確保と職場の魅力向上に向けた具体的な取り組みについて整理する。

・給与や社会保険の見直しと処遇改善

建設業において人材を確保するためには、給与水準の適正化と社会保険制度の整備が重要である。加速化プログラムでは、発注者に対し、適切な賃金水準の確保を要請しており、技能や経験に応じた処遇改善が求められている。

また、能力評価制度の策定など、技能に応じた給与体系の構築も進められている。社会保険については、2017年から未加入対策が段階的に進められ、2020年以降は制度が厳格化された。これにより、社会保険未加入の事業者は建設業許可の新規取得や更新ができなくなっている。

社会保険の加入は、業界における「ミニマム・スタンダード」として定着しつつあり、制度面からの信頼性向上が図られている。

・建設キャリアアップシステムの活用とキャリア形成

技能者が長期にわたって安心して働き続けられる環境を整えるには、キャリアや資格、社会保険加入情報を一元的に管理する仕組みが必要である。

その中核を担うのが「建設キャリアアップシステム」である。このシステムでは、技能職のキャリア、資格、社会保険加入状況などの情報が蓄積され、所属企業が変わっても継続的に管理される。

技能者にはキャリアアップカードが配布され、現場での就業情報が記録されることで、スキルの可視化と適正な能力評価につながる仕組みになっている。

DXのスモールスタート

急速なDX推進は、現場の混乱や反発を招く可能性がある。そのため、いきなり大規模な変革を目指すのではなく、現場になじみやすい業務から段階的に導入する「スモールスタート」の視点が重要である。

いかに革新的な技術であっても、現場の労働者が使いこなせなければ意味を成さず、むしろ負担を増やす結果になりかねない。DX推進にあたっては、従業員の理解と習熟を促しながら、現場に寄り添った導入を進めることが求められる。

(4)まとめ

2024年問題」は、建設業における労働環境の大転換であり、時間外労働の規制強化にとどまらず、業界構造全体の見直しを迫るものであった。制度施行から1年以上が経過した今、勤怠管理や工期設定の適正化、ICT・IoTの導入による生産性向上、処遇改善、キャリア支援制度の整備など、多角的な改革が現場で進められている。

建設業界の持続的な発展のためには、制度対応にとどまらず、現場の実情に即した柔軟な改革と、働き手が安心して長く働ける環境づくりが不可欠である。

今後も、制度の趣旨を踏まえた取り組みを継続し、魅力ある職場づくりを通じて人材の定着と育成を図っていくことが求められる。

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