作業員の労働災害を防ぐ安全教育とは? 安全教育の重要性や効果的な指導方法を解説
2025/9/17

作業員の労働災害(労災)を防ぐには、正しい安全教育が不可欠である。しかし、どのような教育を行えば効果があるのか分からずに悩む管理者も少なくない。本記事は、安全教育の種類や重要性、効果的な指導方法を詳しく解説する。
(1)作業員に対する安全教育の概要
作業員に対する安全教育は、安全衛生教育とも呼ばれる労働安全衛生法にもとづく安全管理の一環である。職場で発生しうる労災を防止し、労働者の生命と健康を守る目的で、法律によって義務づけられている重要な取り組みだ。
安全教育の内容は、業務内容や作業環境、作業員の立場ごとに細かく定められており、適切な内容で実施されなければ効果を得られない。管理者の指導力や安全管理に関する専門知識も、安全教育の成果を左右する大きな要素になる。
そのため、作業員だけではなく管理者に対しても、継続的な教育が必要だ。では、安全教育がなぜ必要とされるのかを具体的に解説する。
・安全教育が求められる理由
安全教育が求められるのは、危険性の高い現場における労災を未然に防止する目的があるためだ。現場の作業員が安全な作業手順を理解しているだけでは不十分で、指導を行う管理者自身も正しい安全管理知識を習得しなければならない。
現場作業において、いつ、どこで、どのような事故が発生するかを予測するのは困難だ。日常的に安全教育を繰り返し行い、あらゆる事故やトラブルへの対応力を高める必要がある。
また、継続的な安全教育の実施により、作業員や管理者の危険を察知する力が向上し、事故防止や緊急時の的確な対応を可能にする。
・安全教育が必要な業種
安全教育が必要とされるのは、機械や設備の操作ミス、危険物の認識不足、不安全な状態や不安全行動が複合的に発生しやすい業種である。過去に発生した労災の多くは、小さな不注意や認識不足が重なり、重大事故に至っている。
ここでは、安全教育が特に重要となる製造業および建設業の具体的な災害状況を解説していく。
【製造業】
製造業では、不安全な状態と作業者の不安全行動が重なることにより、機械への挟まれや巻き込まれ事故が多数発生している。厚生労働省の「令和5年労働災害発生状況の分析等」によれば、2023年の製造業における労災による死亡者数は138人、休業4日以上の負傷者を含む死傷者数に至っては27,194人に上る。
製造業では事故を防ぐため、具体的な事例にもとづいた安全教育を継続的に行う必要がある。
【建設業】
建設業は、厚生労働省の「令和5年労働災害発生状況の分析等」によれば、全産業の中で最も死亡事故が多い。全体の約30%を占め、極めて危険性の高い業種である。高所作業における転落事故や、工具・資材などの落下物による災害の発生率が高い点が特徴的だ。
また、建設業では機械による挟まれ事故も多く、設備管理や安全確認不足が背景にあるケースが目立つ。労災を未然に防ぐためには、現場での危険予知訓練を含めた安全教育を実施し、作業者の危険を察知する力を高めなければならない。事故の特性を理解し、具体的な予防措置を常に意識する安全意識の徹底が、建設業における労災の削減につながる。
・作業員向け安全教育の種類
作業員向けの安全教育は、労働安全衛生法により6種類の教育実施が義務づけられている。作業員が携わる業務内容や危険性のレベル、職位などによって分類され、対象者に応じた適切な教育を実施しなければならない。
例えば、一般的な雇入れ時の教育や作業内容が変更になった場合の教育、危険性が高い業務に従事する作業員に対する特別教育などがある。また、作業を監督する立場にある職長や危険・有害業務従事者に対する安全衛生水準を向上させるための教育も法令により定められている。以下では、具体的な教育内容について解説する。
①雇入れ時、作業内容変更時の教育
雇入れ時や作業内容が変更になる際には、労働安全衛生法第59条の1項および2項にもとづき、安全教育の実施が義務づけられている。教育内容は具体的に8つの項目に分かれており、作業員が業務を安全に行う上で必要な基本的事項を含んでいる。
例えば、作業手順や方法、安全装置や保護具の使用方法に関する知識、作業現場での危険要因や事故防止措置に関する内容、異常時や災害発生時の対応手順がある。
教育を適切に行わないまま業務を開始すれば、安全性を確保できず労災につながる可能性が高くなる。そのため、新たな対象者が入社したり、対象者の作業内容を変更したりする際には、ただちに必要な教育を実施し、安全意識を徹底する必要がある。
②危険有害業務従事者への特別教育
労働安全衛生法第59条の3項では、一定の危険を伴う業務に従事する作業員に対して特別教育の実施を義務づけている。特別教育が義務づけられている具体的業務には、研削砥石の取り替えや試運転、動力駆動のプレス機械の金型、シャーの刃部、それらの安全装置、安全囲いの取り付け・取り外し・調整作業、アーク溶接機を用いた金属溶接・溶断などがある。
また、充電電路の点検や修理、最大荷重1トン未満のフォークリフトやショベルローダー、不整地運搬車の運転、伐木等機械の操作も対象業務である。これらの業務では、事故が起きた際に重大な災害につながりやすいため、特別教育の徹底が不可欠だ。
③職長等への教育
職長など、作業員を直接指導・監督する者に対しては、労働安全衛生法第60条にもとづいた特別な教育が必要である。職長は作業員の安全管理を直接担う立場にあり、安全衛生管理の基本的な考え方や具体的な実施方法を熟知しなければならない。
教育では、安全衛生管理の重要性や、災害防止のために必要な職長の役割・責任、現場で起こり得る危険性の評価方法、作業員への安全指導や作業環境改善の具体的手法を教える。
新たに職長に任命された場合や管理職として業務内容が変わった場合には、ただちにこの教育を受け、必要なスキルを確実に習得する必要がある。職長自身が十分な安全意識を持つことで、職場全体の安全管理レベルが向上する。
④危険有害業務に従事する者への教育
危険または有害な業務に従事する作業員に対する安全教育は、労働安全衛生法第60条の2に規定されている。この教育は、対象となる業務に伴う具体的な危険性や有害性を理解させ、それを防ぐための正確な知識や対処法を指導する目的を持つ。
例えば、有害物質を扱う業務や、高所作業・酸欠危険場所における業務、騒音や振動の著しい環境下での作業などが該当する。危険業務においては、作業手順を誤れば致命的な災害が起こる恐れがあるため、対象者は業務の開始前に安全衛生教育を確実に受けることが義務づけられている。
教育を繰り返し実施し、危険性への認識を常に高めておくことが事故防止には欠かせない。
⑤安全衛生水準を向上させる教育
事業場全体の安全衛生水準を向上させるため、現場を指導する立場にある者に対して労働安全衛生法第19条の2で定められた教育が必要だ。教育には初任時教育、定期教育、随時教育、能力向上教育、健康教育などがある。初任時教育は新たに管理職になった者が受ける基本的な教育であり、定期教育は一定期間ごとに最新の安全衛生知識を身につけさせるために行う。
また、随時教育は作業現場の状況が変化した場合や事故発生時に実施され、能力向上教育は安全管理能力を高めるために専門的知識や技術を習得させる。健康教育では管理者自身の健康管理意識を向上させる。これらを組み合わせることで、事業場の安全衛生管理レベルを総合的に高めることができる。
(2)作業員に対する安全教育や指導方法
作業員の安全教育では、現場状況や作業特性に応じて最適な指導方法を選ぶ必要がある。一律的な指導や形式的な教育だけでは作業員に安全意識が十分に浸透せず、実際の事故防止につながりにくい。現場では、事故の原因や作業員の特性にもとづいた柔軟で的確な教育方法の選定が不可欠だ。
また、教育の効果は、指導者の安全意識や姿勢に大きく影響を受ける。指導者自身が日頃から安全衛生を実践し、作業員に具体的な手本を示す姿勢が求められる。
以下では、指導者としての心得、効果的な教育方法の選択、新しい安全概念である「Safety-II」について順を追って解説する。
・指導者としての心得
指導者の安全衛生に対する考え方や取り組み方が教育に与える影響が大きい。内容ごとの指導要否、時間、場所、人などの条件を考慮し、効果的な取り組みを行う。指導者が持つ安全衛生への意識や姿勢は、安全教育の成果を大きく左右する。教育効果を最大限に高めるには、指導者自身が安全に関する規律を徹底し、常に作業員の模範としての態度を示す必要がある。
安全教育の内容を計画する段階では、各項目の重要度や作業員の理解度を評価し、教育を行う適切な時間や場所、対象人数を細かく設定しておくことが重要だ。
知識の提供だけではなく、作業現場の具体的状況を踏まえた実践的で効果的な指導を心掛けなければならない。指導者が日常的に高い安全意識を持ち、それを明確に行動で示すことで、作業員全体の安全意識と行動の定着につながる。
・教育方法の選択
個別教育・集団教育、講義形式・討議形式、対面・オンラインなどから、シチュエーションに応じて適した方法を選択する。
安全教育の効果を出すには、作業員の特性や教育内容に応じて最適な教育方法を選択する必要がある。教育の形式としては、対象者数や理解度に合わせた個別教育や集団教育があり、教育内容に応じて講義形式や討議形式も選べる。
さらに、現場教育の環境や作業員の勤務状況により、対面の教育だけでなくオンラインでの実施も有効だ。例えば、現場経験を共有するには討議形式が効果的であり、基礎知識の伝達には講義形式が適している。このように、内容とシチュエーションに応じてさまざまな教育方法を適切に組み合わせることで、作業員の安全意識向上を確実なものにする。
・Safety-II
事故やインシデントを未然に防止することに注力する考え方で、「うまくいかないこと」に着目するSafety-Iに対し、Safety-IIは「うまくいっていること」にも着目して安全を探求する。Safety-IIは「うまくいっている事例」に着目し、それを分析して事故防止に生かす、新しい安全管理の視点である。従来の安全管理では「うまくいかない事例」や事故が起きた後の再発防止策に重点が置かれていた。
しかし、それだけでは事故防止の取り組みが限界に達しやすいため、日常的に問題なく作業が進む理由を分析し、それを維持・強化するのが、根本的な安全性向上を目指すSafety-IIだ。
日常業務の中に潜む安全の成功要因を明確化すれば、作業員自身が継続的に安全行動をとりやすくなり、組織全体の安全文化の醸成にもつながる。安全教育にSafety-IIの考え方を導入すると、現場の安全性は、より強固になる。
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