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労働災害時の対応手順は? 提出書類や発生前に確認しておきたい内容も解説

2025/8/13

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労働災害時の対応手順は? 提出書類や発生前に確認しておきたい内容も解説

労働災害(労災)が発生した場合、企業は的確に対応しなければならない。しかし、いざ労災が起こった場合、正しい対応手順や労働基準監督署への提出書類が分からず、戸惑う担当者も少なくないだろう。

また、日頃から災害発生に備えて何を確認しておくべきか、具体的な対策方法に悩むことも多く見受けられる。本記事では、労災発生時の正確な対応手順や提出が求められる書類、災害が発生する前に企業が確認しておくべきポイントについて詳しく解説する。

(1)労災が発生した場合の対応手順

労災が発生した場合は、的確な対応が必要だ。対応を誤れば被災者の状況が深刻化する可能性があり、企業への法的・社会的な責任問題に発展しかねない。

そのため、救護措置や原因調査、必要な手続きを漏れなく実施する体制を日頃から整えておく必要がある。被災者への適切な救護措置を最優先とし、その後に原因究明や労災保険申請、労働基準監督署への報告、再発防止対策を確実に進めていくことが重要だ。

ここでは、労災が発生したときの対応手順について紹介する。

・被災者の救護と病院への搬送

労災発生時は、被災者の安全を最優先に考え、救護措置と病院への搬送を行う。事故直後は現場の混乱により救護が遅れる可能性があるため、事前に緊急時の連絡体制を明確にし、責任者を決めておく必要がある。

被災者の症状が重い場合、迷わず消防署や救急隊へ連絡し、指示に従って速やかに対応する。病院搬送後は家族や警察、労働基準監督署への連絡を順次進め、正確な状況説明を行う。

このように、万が一に備えて応急処置や搬送方法について事前研修を実施しておくと、より素早い対応が可能になる。

・労災発生時の原因調査と記録

労災が発生した場合、早急に原因調査を実施し、事実を正確に記録する必要がある。また、事故発生の日時・場所・状況は漏れなく記録しておくことが重要だ。

警察や労働基準監督署が現場検証に入ることもあるため、可能な限り事故現場はそのまま保存しておこう。

労災保険の申請手続き

労災保険の申請は原則として被災者本人が行うが、実務上は企業側が申請書類の作成や提出などを支援・代行するケースが多く見られる。特に重症の場合や業務上の都合から、企業が主導して関係機関とのやり取りを行う場面も多いため、企業内に申請支援体制を整えておくことが重要である。

申請内容に不備があると給付までの時間が延び、被災者の生活に支障が出る可能性があるため、注意が必要だ。企業内に申請支援担当を置き、手続きの流れを事前に把握しておくと円滑に進む。労災保険制度の概要や申請手順について、普段から従業員向けに研修を行う体制をつくることも効果的である。

労働基準監督署の調査への対応

労働基準監督署の調査では、事故の経緯や企業の管理体制が適正だったかを厳しく確認される。調査に対して誠実な協力を怠ると、是正勧告や行政指導を受ける可能性があるので注意が必要だ。担当部署を明確に定め、労働基準監督署から求められた資料や情報を正確に提出しよう。

労働基準監督署の調査結果を真摯に受け止め、改善を速やかに実行するのも企業の責務である。調査時に指摘された事項をすべての従業員に共有し、再発防止に向けて具体的な改善策を考えておこう。

・届出義務がある労働者死傷病報告の提出

労働者が死亡や休業した場合、事業主には「労働者死傷病報告書」を労働基準監督署へ速やかに提出する義務がある。この報告を怠ると労働安全衛生法違反になり、行政処分を受ける可能性がある。事故が発生したら、すぐに報告書の記載項目を確認し、必要情報を正確にまとめよう。

提出期限を守ることが重要で、休業4日以上、死亡の場合は遅滞なく届出を行う必要がある。報告書作成担当を事前に決め、すぐに対応できるよう日頃から訓練を重ねると、提出の遅れや漏れを防げる。

・労災の再発防止対策

労災後には、原因を徹底的に分析し、再発防止策を具体的に策定・実施する。再発防止策があいまいだと同様の事故が再び起こる可能性があるため、設備の改善や安全作業手順の徹底、従業員への安全教育を行うことが重要だ。

具体的には、安全マニュアルの改訂や現場設備の定期点検、健康診断の充実などを継続的に実施する。さらに、現場からの声を吸い上げ、労働環境の実態を常に把握する仕組みも求められる。再発防止策をすべての社員に周知し、企業全体で労働安全への意識を向上させることが必要である。

(2)労働基準監督署へ提出する書類は主に2つ

労災が発生した際、企業は労働基準監督署への書類提出が法律で定められている。提出書類は主に「労働者死傷病報告書」と「労働災害再発防止書」の2つがあり、どちらも事実を正確に把握した上で作成する必要がある。

書類を提出しないと労働安全衛生法違反として行政処分を受ける場合があるため、企業は提出期限や記載項目を事前に理解し、速やかな対応を心掛ける。担当者を明確に決定し、万が一の場合でも遅れがないように準備体制を整えておく必要がある。

ここでは、労働基準監督署へ提出する書類について紹介する。

・労働者死傷病報告書

労災により労働者が死亡や休業に至った場合、企業は「労働者死傷病報告書」を労働基準監督署へ提出する義務がある。報告書は事故の発生日時、場所、被災労働者の氏名、負傷の程度や原因、休業見込みの日数など、具体的な内容を記載する。

提出時期や使用する様式は休業日数などによって異なるため、適切に対応しよう。

提出が遅れたり内容に誤りがあったりすれば、指導や勧告の対象になる可能性もある。そのため、事故が起きた場合は正確に情報を収集し、関係部署との連携を密に取って速やかに対応する体制を整える必要がある。

労働災害再発防止書

労災発生後、労働基準監督署から「労働災害再発防止書」の提出を求められる場合がある。事故の発生要因を詳細に分析した上で、再発防止に向けた具体的な対策を記載する書類のことである。

再発防止策があいまいだったり実効性に欠けたりすると、再提出や是正指導が入る可能性がある。そのため、安全設備の強化、従業員に対する教育や指導の具体的な方法、作業マニュアルの見直しや点検スケジュールの明確化などを盛り込み、具体的な内容を記載しておくことが大切だ。

事故防止に対する企業の姿勢を明確に示すため、専門的な視点や第三者の意見を取り入れ、社内外で十分な検討を重ねて書類を作成する必要がある。

(3)労災対応時に押さえておきたいポイント

労災対応時に対応を誤れば、被災者の健康被害が悪化するだけでなく、企業の社会的な責任問題にも発展する可能性がある。健康保険証の誤用、労災隠しのリスク、通勤災害と業務災害の違いに関する誤解が、トラブルの要因になるケースが多い。

そのため、従業員全員にポイントを明確に周知し、誤りや混乱を防ぐ体制が必要だ。ここでは、労災対応時に押さえておきたいポイントについて紹介する。

・労災時は健康保険証を使わないよう事前に周知する

労災が発生した場合、医療機関健康保険証を使わないよう、事前に従業員へ明確に周知する必要がある。理由としては、労災保険健康保険は、制度上、併用が禁止されているからである。

万が一、誤って健康保険証を使用すると、後日、医療費の返還手続きが必要になるなど、従業員にとって経済的な負担が増える原因となる。

この事態を避けるため、企業は従業員に対して労災発生時の対応マニュアルを作成し、定期的な安全教育や研修で周知を徹底しよう。社内掲示板やメールを活用して注意喚起を頻繁に行うと、誤用防止の効果が高まる。

・労災隠しに該当する行為は企業が罰則を受ける

労災の発生を意図的に報告しない、または虚偽報告をした場合、「労災隠し」と認定され、企業に対し厳格な処分が下される。具体的には50万円以下の罰金が科され、企業名が労働基準監督署のWEBサイトに公開される。

企業イメージの著しい低下につながり、顧客や取引先からの信頼を失う原因となる。労災隠しを未然に防ぐためには、経営層が率先して労災報告義務の重要性を従業員へ浸透させる必要がある。具体的な対策として、匿名での相談窓口設置やコンプライアンス教育の強化など、透明性のある職場環境づくりが大切だ。

・通勤災害と業務災害の違いを把握する

通勤災害と業務災害は、適用される制度や手続きが異なるため、企業や従業員は違いを正しく理解する必要がある。通勤災害とは、通勤中の経路において発生した事故や負傷で、業務災害とは明確に区別されている。

手続きにおいても提出書類が異なり、手続き方法を誤ると給付遅延などのトラブルが生じる可能性がある。そのため、企業は両者の違いを具体的な事例を用いて従業員へ説明し、労務担当者には適切な申請手続きを事前に教育しておくべきであろう。

(4)まとめ

労災対応は、速さと正確さが求められるため、事前準備や正しい知識の周知が重要である。事故発生後の初期対応を誤ると、被災者への悪影響だけでなく、企業の社会的信頼を失う可能性がある。

また、健康保険証の取り扱いや労災隠しの問題、通勤災害と業務災害の区別など、細かな部分をおろそかにしないよう注意しよう。日頃から従業員に周知徹底し、管理職や経営層が率先して労働安全意識を高めることで、万が一の事態でも円滑に対処できるようになるだろう。

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