労働条件の明示義務 雇用契約後のトラブルを回避するために
2025/3/26

(1)労働条件の明示義務とは
労働条件の明示義務とは、労働契約を締結する際に、使用者が労働者に対して賃金や労働時間などの労働条件を明確に示す義務のこと。労働条件の明示義務の違反には、30万円以下の罰金が科される可能性がある。雇用形態を問わず、すべての従業員に明示する必要がある。
この義務は労働基準法第15条にもとづいており、労働者が安心して働ける環境を整えるために不可欠なものである。明示された労働条件が実際と相違する場合、労働者は労働契約を即時に解除することができる。労働条件の明示は、書面で行うことが原則であり、労働条件通知書や雇用契約書に記載される。労働者が希望した場合は、メール等で明示することも可能。ただし、書面として出力できるものに限られる。
(2)労働条件の明示義務の重要性
労働条件の明示義務は、労働者と使用者の双方にとって非常に重要である。まず、労働者にとっては、自分の労働条件が明確に示されることで、安心して働くことができる。労働条件が不明確な場合、労働者は不安を感じ、モチベーションが低下する可能性がある。また、労働条件が明示されていないと、労働者が自分の権利を主張することが難しくなる。
一方、使用者にとっても、労働条件の明示は重要である。労働条件を明確に示すことで、労働者との間での誤解やトラブルを未然に防ぐことができる。例えば、賃金の支払い方法や労働時間に関するトラブルは、労働条件が明示されていない場合に発生しやすい。これらのトラブルは、労働者の不満を引き起こし、最悪の場合、訴訟に発展することもある。したがって、労働条件の明示は、使用者にとっても法的リスクを軽減するための重要な手段である。
(3)明示する内容
労働条件の明示義務にもとづき、使用者が労働者に対して、必ず明示しなければならない内容は以下のとおり。
- ①労働契約期間
- ②有期契約を更新する場合の基準
- ③就業場所や従業すべき業務
- ④始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩、休日など
- ⑤賃金の決定方法、支払時期など
- ⑥退職
- ⑦昇給
①~⑥は原則、書面で交付する必要がある。
また、以下については、会社で規定されている場合に明示する必要がある。
- ①退職手当
- ②賞与等
- ③労働者に負担させるべき食費、作業用品等
- ④安全衛生
- ⑤職業訓練
- ⑥災害補償等
- ⑦表彰や制裁
- ⑧休職
(4)2024年4月の追加事項
労働基準法施行規則第5条が改正され、2024年4月から、労働条件の明示義務に新たな事項が追加された。この追加は、労働者の権利をさらに強化し、労働条件の透明性を高めることを目的としている。
追加された明示内容は、以下のとおり。
- ・就業場所と業務の変更の範囲
- 雇い入れ時の就業場所や業務内容を明記するのに加え、将来的な変更の範囲を明示する必要がある。記載例は以下のとおり。
①就業場所や業務に限定がない場合
就業場所 [雇い入れ直後] 東京本社
[変更の範囲] 会社の定める事業所業務内容 [雇い入れ直後] 営業
[変更の範囲] 会社の定める業務②就業場所や業務の一部に限定がある場合就業場所 [雇い入れ直後] 東京本社
[変更の範囲] 東京都内業務内容 [雇い入れ直後] 営業
[変更の範囲] 営業、営業事務、営業企画③就業場所や業務の変更が想定されない場合就業場所 [雇い入れ直後] 東京本社
[変更の範囲] 変更なし業務内容 [雇い入れ直後] 営業
[変更の範囲] 変更なし④一時的に異動や業務が限定される場合就業場所 [雇い入れ直後] 東京本社
[変更の範囲] 会社の定める事業所(育児・介護による短時間勤務中は、原則、勤務地の変更を行わないこととする。ただし、労働者が勤務地の変更を申し出た場合はこの限りではない)業務内容 [雇い入れ直後] 事務
[変更の範囲] 会社の定める業務(育児・介護による短時間勤務中は原則、業務の変更を行わないこととする。ただし、労働者が業務の変更を申し出た場合はこの限りではない)
- ・更新上限
- 有期労働契約の締結と契約更新のタイミングごとに、更新上限がある場合には、その内容の明示が必要になる。明示例は「契約期間は通算4年を上限とする」「契約の更新回数は3回まで」など。また、更新上限を新設、もしくは短縮する場合には、労働者に対して、あらかじめ理由を説明する必要がある。
- ・無期転換申込機会
- 無期転換申込権が発生する契約更新のタイミングごとに、該当する有期労働契約の契約期間の初日から満了する日までの間に無期転換を申し込むことができる旨を明示する必要がある。「本契約期間中に無期労働契約締結の申込をした時は、本契約期間満了の翌日から無期雇用に転換することができる」などを明示する。
- ・無期転換後の労働条件
- 無期転換申込権が発生する契約更新のタイミングごとに、無期転換後の労働条件を明示する必要がある。
(5)トラブル回避のための対策
労働条件の明示義務を徹底することで、雇用契約後のトラブルを回避するための対策を講じることができる。具体的には、以下のような対策が有効である。
- ・労働条件の明示の徹底
- 労働条件を明示する際には、書面での交付を徹底し、労働者が内容を理解したことを確認する。労働条件通知書や雇用契約書を活用し、労働者に対して明確に説明する。
- ・コミュニケーションの強化
- 労働者とのコミュニケーションを強化し、労働条件に関する疑問や不安を解消する。定期的な面談やアンケートを実施し、労働者の意見を積極的に取り入れる。
- ・トラブルの早期発見と対応
- 労働条件に関するトラブルが発生した場合には、早期に発見し、迅速に対応する。トラブルの原因を分析し、再発防止策を講じることが重要である。
- ・就業規則の整備
- 就業規則を整備し、労働条件に関するルールを明確にする。就業規則を定期的に見直し、最新の法令に適合させる。
これらの対策を講じることで、雇用契約後のトラブルを未然に防ぐことができる。労働者と使用者の双方が安心して働ける環境を整えるために、労働条件の明示義務を順守することが求められる。
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