製造業はなぜ残業が多いのか? 労働時間が多くなる理由と対策を紹介
2025/10/8

(1)製造業の労働時間の実情
製造業は、他の業種と比較しても労働時間が長くなりやすい傾向にある。そのため、法定の労働時間を超える残業が常態化している企業も少なくない。
ここでは、基本となる労働時間の上限の概要や、製造業における実際の残業時間の実態について詳しく解説する。
・労働時間の上限とは
日本における法定労働時間は、1日8時間・週40時間以内と定められている。これは労働基準法によって明確に定められており、企業はこの時間を基準に業務を組み立てなければならない。
ただし、36協定を締結すれば、時間外労働として月45時間・年360時間まで延長することが認められている。さらに、特別条項付き36協定を結んだ場合には、年間720時間以内、複数月平均80時間以内、単月100時間未満という条件の範囲で、追加の時間外労働が可能になる。ただし、これらを超える労働は法律で禁止されている。そのため、特別条項がない限り、企業側は従業員にさらなる残業を求めてはならない。
- ※参考:[厚生労働省]労働時間・休日
・製造業の残業時間
一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)が2020年に発表した「労働時間等実態調査」の結果によれば、製造業の年間時間外労働は平均で180時間である。この数値は月平均に換算すると約15時間程度になるが、繁忙期や人手不足の影響を受ける企業では、それを大きく上回る残業を行っているケースも存在する。特に中小企業や特定の生産ラインにおいては、作業が属人化している場合が多く、特定の社員に負担が集中していることが指摘されている。
(2)労働時間が多くなる4つの理由
製造業で長時間労働が常態化する背景には、業界特有の理由が複数ある。これらの要因が重なることで、現場での作業効率が落ち、結果として残業が増加することになる。
ここでは、製造業において労働時間が多くなる4つの理由について詳しく解説する。
・国内の生産年齢人口減少に伴う人手不足
少子高齢化が進む日本社会において、生産年齢人口は年々減少している。この影響を大きく受けているのが製造業である。特に若年層の労働者や女性の就業者が敬遠しがちな傾向にある。
人手不足が常態化すると、現場では1人あたりの業務負担が増加する。それに伴って労働時間も長くなる。つまり、人員確保の難しさが、労働時間の長期化につながっているのである。
・繁忙期がある
製造業の多くは、季節や時期によって需要が大きく変動するという特徴がある。そのため、季節商品やキャンペーン向け商品を扱う企業では、一定の時期に注文が集中し、工場の製造ラインがひっ迫する傾向が見られる。
このような繁忙期には、限られた時間内で多くの製品を完成させる必要があるため、残業の発生は避けられない。
・製造現場における業務の可視化ができていない
製造業の現場では、業務の流れや進捗状況が明確に管理されていない場合が少なくない。こうした状況では、業務の属人化が進み、特定の作業を一部の従業員だけが担うという偏りが発生する。
その結果、製造現場における業務の可視化ができず、限られた人員に業務が集中するのである。こうした背景も残業の原因になっており、昨今問題視されている。また、管理者が業務全体の進行状況を正確に把握できていない場合、ムダな作業や重複作業が生じやすくなる。
・労働時間が評価の1つ
製造業の中には、働いた時間の長さそのものを評価基準の一つとしている企業も存在する。これは、業務の成果や生産効率を正確に測る仕組みが整っていないことが原因とされている。
その結果、長時間働く社員が「頑張っている」と評価されやすく、労働時間の短縮に向けた意識が育ちにくい風土が形成されてしまう。このような文化が根づくと、効率的な働き方への移行が進まず、残業時間の改善も遅れがちになる。
労働時間を効率化するには、評価制度そのものを見直すことが重要である。
(3)残業を減らし労働時間を適正にするための4つの対策
製造業における長時間労働を改善するためには、現場の構造や業務体制を見直すことが重要だ。なぜなら、単に残業を制限するだけでは根本的な解決にはならないからである。
ここでは、残業を削減するために、製造業で実施されている代表的な4つの対策について解説する。
・多能工化を図る
残業を減らし労働時間を適正にするには、人材の多能工化を図るべきである。「多能工化」とは、1人の従業員が複数の業務に対応できるように、スキルを習得する取り組みである。
この仕組みを導入することで、特定の社員に業務が集中する属人化防止に役立つ。属人化が解消されれば、だれかが休んでもほかの人が対応できるようになるため、無理な残業を行う必要がなくなる。
また、柔軟な人員配置が可能になるので、急な生産変動にも効率よく対応できるようになるメリットもある。その結果、全体の生産効率向上が期待できる。このように、多能工化は残業削減に効果があるだけでなく、働きやすい職場づくりにも貢献する。
・製造現場での業務の可視化
人材の多能工化だけでなく、業務の可視化も重要である。業務の可視化とは、だれがどの作業をどのくらい行っているかを明確に把握することから始まる。
現場の進行状況や担当者ごとの業務量が可視化されると、偏った作業負担を防げるほか、過度な残業を減らすことにつながる。さらに、ムダな作業や重複作業にも気づきやすくなるため、業務効率の向上も期待できる。
また、作業ごとの標準時間を設定することで、生産計画に現実的な見通しを持たせることも可能である。こうした仕組みを整えることが、残業削減の第一歩になる。
・製造現場での「5S」の徹底
5Sとは、整理・整頓・清掃・清潔・しつけの頭文字を取った職場管理の基本事項である。この5Sを徹底することで、現場のムダな動きや時間の浪費を削減できる。
例えば、必要な道具や部品を探す時間が短縮されれば、その分作業の効率が上がり、定時内で業務を終えられる可能性が高まる。
また、整理された現場は快適な職場環境になるだけではなく、トラブルや修理等による残業も発生しにくくなる。このように、5Sは単なる美化活動ではなく、労働時間の最適化に直結する重要な取り組みと言える。
・残業時間の報告を徹底する
残業を削減するためには、現場での管理体制を強化する必要がある。その一環として有効なのが、残業時間の報告を徹底することである。上司への事前申告や日報による報告制度を設けることで、無意識に行われるサービス残業や、不要な残業を抑止する効果が期待できる。
また、残業理由が明らかになることで、業務の見直しや人員配置の調整といった改善策につなげやすくなるのもポイントである。つまり、管理者が労働時間の実態を把握できる環境を整えることが、残業を適正化するための近道である。
(4)まとめ
製造業における長時間労働は、業界全体が抱える構造的な課題と密接に関係している。人手不足や繁忙期の業務集中、作業の属人化、非効率な業務フロー、そしてあいまいな評価制度などが複雑に絡み合うことで、残業が常態化しているのである。
これらの課題を解決するためには、まず現場の実態を正確に把握し、多能工化や業務の可視化、5S活動の徹底、残業管理の強化といった具体的な対策を講じることが重要である。生産性の向上と従業員の働きやすさを両立させることが、持続可能な製造現場の実現につながるだろう。
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