製造業で重要視されるコンプライアンスのポイントとは？　4つの対策を解説

・なぜ製造業でコンプライアンスが重要視されるのか

製造業の現場では、日常的な業務の中に多くのリスクが潜んでいる。例えば、取引先との不適切な契約は下請法違反に該当する。発覚すれば行政指導や企業名の公表といった制裁を受ける可能性があるため注意が必要である。

さらに、製品の品質に関する虚偽表示やデータ改ざんが発覚した場合には、景品表示法違反に問われ、企業の信頼が大きく損なわれる。また、従業員の労働環境に関しても、違法な長時間労働や安全管理の不備は労働災害（労災）につながる。

このように、法令違反は重大な結果を招く恐れがあるため、コンプライアンスが重要視されるのである。

・製造業におけるコンプライアンスリスクとは

製造業が直面するコンプライアンスリスクは多岐にわたる。具体的には、下請法に違反する不適切な取引、製品品質の改ざん、労務や安全管理の不備、さらには環境や貿易に関する規制の違反まで、広範囲である。

さらに、技術情報や顧客データなどの情報管理がずさんであると、重大な事故や社会的批判につながる恐れがあるため、注意が必要である。こうしたリスクは発覚した時点で企業の信用を著しく損なうため、日頃から組織全体で意識し、対応を徹底しなければならない。

・取引先との関係性

製造業においては、部品の調達から組み立て、出荷に至るまで多くの協力会社と連携している。このような取引関係においては、取引先に不利な契約や一方的な発注内容の変更といった不適切な対応が問題になる傾向がある。

特に、中小企業を保護する目的で制定された下請法に違反した場合には、行政処分を受けるだけでなく、企業のイメージも損なわれるため注意が必要である。透明性と公正性を確保するには、契約内容や価格決定の根拠を明確にし、双方にとって納得のいく形で業務を行うべきである。

• ※参考：[経済産業省]営業秘密～営業秘密を守り活用する～
• ※参考：[公正取引委員会]令和5年度における下請法の運用状況及び中小事業者等の取引公正化に向けた取組

・品質の透明性

製品ラベルやパンフレットに記載される内容は、消費者が購入判断をする際の重要な情報源である。そのため、実際の品質や性能と異なる表示をしてしまうと、景品表示法に違反するだけでなく、社会的な批判を受ける要因になる。

特に食品や医薬品、工業製品などは、わずかな虚偽表示でも信頼を大きく損なう分野である。従って、製品の仕様や性能については常に正確なデータにもとづき、誠実に開示しなければならない。その姿勢が企業としての責任ある対応に直結する。

・適切な労務管理

製造現場では、派遣社員や請負契約を活用する場面が多い。しかし、形式上は請負であっても実質的には指揮命令下にある場合、偽装請負として違法と判断されるケースもある。さらに、労働時間や安全管理の不備が原因で事故が発生した場合、企業責任が問われ、報道によって社会的非難を受ける恐れもある。

これらのリスクを避けるためには、労働基準法や労働安全衛生法を正しく理解し、現場での教育や監督体制を整備しなければならない。

• ※参考：[厚生労働省]製造事業者向け安全衛生管理のポイント

・規制への対応

製造業は日本の産業の中でも重要な位置を占めているため、国内外規制への対応が不可欠である。例えば、排出ガスや産業廃棄物に関する環境規制を無視すると、罰則だけでなく社会的信用も失う。

また、輸出入に関連する法令に違反した場合には、国際的な取引停止や制裁措置を受けるリスクもある。こうした事態を避けるためには、各国の法制度を調査し、変化に柔軟に対応できる体制を構築しなければならない。

・情報の適切な管理

製造業では、製品の設計図や製造プロセス、顧客情報など、多くの機密情報を扱っている。これらの情報が外部に漏えいすると、競争力の低下や損害賠償など深刻な事態を招く可能性がある。

その上、情報管理が不十分になると、社内の不正や外部からのサイバー攻撃にも対応できなくなる。こうした事態を避けるためには、紙資料の保管ルールやシステムのセキュリティ対策強化が求められる。

また、社員に対して継続的な教育を行うことで、情報の漏えいを防止し、社会的信頼の維持につなげることも重要である。

・社内の体制構築とガイドラインの策定

コンプライアンスを企業全体で確実に実行するためには、明確な管理体制の構築が欠かせない。まず、法令順守を統括する部門や担当者を明確に定め、責任の所在をはっきりさせるべきである。

その上で、社内規程や行動指針といったガイドラインを整備し、従業員一人ひとりに周知を徹底させる。これにより、違反を未然に防ぐ意識を根づかせるだけでなく、日常的な業務における判断の基準にもなる。

また、ガイドラインは法令の改正や社会状況の変化に応じて見直し、常に最新の内容を反映させることも忘れてはならない。

・従業員への定期的な研修や教育の実施

コンプライアンスの意識を従業員に根づかせるためには、継続的な教育と研修の実施も重要である。たとえ、体制やルールが整っていても、現場の従業員が内容を理解していなければ、実効性を伴わない。研修では、具体的な違反事例や判断の難しい場面に関するケーススタディを用いることで、実務に沿った理解が得られる。

また、入社時や昇進時といった節目だけでなく、定期的に実施することで、意識の風化を防ぐのに役立つ。このとき、eラーニングなどを活用すれば多様な働き方をしている従業員にも対応可能である。

・内部通報や相談窓口を整える

コンプライアンス違反の早期発見と対応には、内部通報制度やシステム整備も有効である。なぜなら、違反を直接目にした従業員が声を上げられる環境が整っていなければ、問題は水面下にとどまり、発覚が遅れるためである。

このとき、内部通報制度は匿名性が担保されていることや、不利益な扱いを受けないことを制度として明示すべきである。さらに、通報を受けた後の調査体制と対応プロセスも明確に定め、必要に応じて社外の第三者機関を活用することも効果的である。

このように、相談しやすく透明性の高い仕組みを整えることが、コンプライアンス違反の抑止につながる。

• ※参考：[消費者庁]令和5年度 民間事業者等における内部通報制度の実態調査報告書（PDF）

・組織文化を変える

コンプライアンスの実現には、体制や制度と同じくらい、企業文化の改革が重要である。いかにルールを整えても、倫理観が欠如した環境では、従業員の意識や行動は変わらない。

それどころか法令やルールを無視するリスクが高まる可能性があるため注意が必要である。従って、経営層が率先して法令順守を重視し、透明性のある経営を実践することが、組織全体へのメッセージになる。

従業員は経営者の言動をよく見ている。そのため、経営者の姿勢や行動が現場の判断に直接的に影響を与えるのである。つまり、コンプライアンスを企業理念に組み込み、日常業務において当たり前のように守られる環境をつくることが、持続可能な経営への第一歩である。