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労務法改正

【2026年4月施行】高年齢労働者の労災防止 「努力義務化」が企業に突きつける現実

2026/3/31

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【2026年4月施行】高年齢労働者の労災防止 「努力義務化」が企業に突きつける現実

少子高齢化の進行により、日本の労働現場では60歳以上の高年齢労働者の就労が急速に広がっている。一方で、労働災害(労災)に占める高年齢者の割合は年々高まり、国はこれを喫緊の課題と捉えた。

こうした背景のもと、2026年4月1日から、改正労働安全衛生法にもとづき、高年齢労働者(おおむね60歳以上)の労災防止対策が、すべての事業者にとって「努力義務」として明文化される。

本記事では、制度改正の背景と実態、企業に求められる具体的な対応、そして人事労務担当者が押さえるべき実務のポイントを整理する。

(1)努力義務化の背景にある高年齢労働者の労災実態

高年齢労働者に対する労災防止対策が努力義務として法制化された最大の理由は、労災の発生実態と就労構造との間に、看過できないギャップが生じている点にある。

厚生労働省が2025年5月に公表した「労働災害発生状況」によれば、雇用者全体に占める60歳以上の労働者の割合は19.1%である一方、休業4日以上の死傷災害に占める60歳以上の割合は30.0%に達する。これは、就労者の約5人に1人が60歳以上であるにもかかわらず、労災被災者では約3人に1人が高年齢層であることを意味する。

さらに、年齢階層別に労災発生率を見ると、その差はより顕著である。労災発生率を示す指標の一つである度数率(死傷者数÷延べ実労働時間数×100万)で比較した場合、30代と比べて、60歳以上の度数率は男性で約2倍、女性では約5倍とされており、加齢とともに労災リスクが急激に上昇する傾向が明確に示されている。

この結果は、「経験があるから安全」という従来の職場認識が、統計的には成立していない現実を浮き彫りにしている。

(2)2026年4月施行「高年齢者の労災防止のための指針」の位置づけ

2026年4月1日から適用される努力義務化は、2025年公布の改正労働安全衛生法にもとづくものであり、厚生労働大臣が「高年齢者の労働災害防止のための指針」を公表している。

この指針の重要なポイントは、従来の行政通知やガイドラインとは異なり、法律にもとづく「大臣指針」である点にある。これまで高年齢労働者対策は、「エイジフレンドリーガイドライン」として自主的な取り組みが推奨されてきたが、法的拘束力は限定的であった。

しかし今回の改正により、ガイドラインは「指針」として位置づけられ、事業者の努力義務の具体的内容を示す公式な判断基準となった。

(3)統計が示す事故類型の変化と高年齢労働者の被災構造

厚生労働省の統計によれば、2024年の休業4日以上の死傷者数は13万5,718人となり、4年連続で増加した。事故の型別では、「転倒」が36,378人と最も多く、「動作の反動・無理な動作」が22,218人、「墜落・転落」が20,699人と続く。

これらはいずれも、作業行動に起因する事故であり、高年齢労働者との関連性が高い。加齢に伴う筋力や平衡感覚の低下により、つまずきや無理な姿勢がそのまま災害につながりやすいためである。

実際、事故の型別に年齢差を見ると、「墜落・転落」では60歳以上男性の度数率が20代の約3.6倍、「転倒による骨折等」では60歳以上女性の発生率が20代女性の約19.5倍に達するなど、特定の事故類型において高年齢層のリスクが突出している。

こうした統計は、労災対策において危険作業の削減だけでなく、日常動作を前提とした作業環境や作業方法の見直しが不可欠であることを示している。

(4)企業に求められる5つの対応と実務ポイント

指針では、事業者が高年齢労働者の労災防止のために取り組むべき事項として、以下の5つの柱を体系的に示している。

安全衛生管理体制の確立とリスクアセスメント

経営トップが方針を明確にし、高年齢者特有のリスクを前提とした危険源の洗い出しを行うことが求められる。

②身体機能低下を補う職場環境の改善

高年齢者であっても安全に働き続けることができるよう、事業場の施設、設備、装置等の改善を検討し、必要な対策を講じることが求められる。

③健康・体力状況の把握

法定健康診断に加え、体力チェック等を通じて、事業者と労働者双方が現状を客観的に把握することが重要とされている。

④状況に応じた業務調整

労働時間の短縮や作業内容の見直し、配置転換等を通じて、無理のない就労を実現することが求められる。

⑤高年齢者および管理者への安全衛生教育

高年齢労働者本人のみならず、管理監督者に対しても、加齢特性に関する理解を深める教育が重要とされている。

これら5点は努力義務であるものの、労災発生時には民事責任における安全配慮義務の判断材料となる可能性が高い。指針への未対応は、「予見可能性があったのに対策を講じなかった」と評価されかねない点を、人事労務担当者は強く意識すべきである。

(5)まとめ

2026年4月から始まる高年齢労働者の労災防止努力義務は、形式的な法改正ではない。労働力不足が進む中で、高年齢者が安全に働き続けられる環境整備は、企業の持続性そのものに直結する経営課題である。

国の統計が示すとおり、高年齢者の労災は今後も増加が見込まれる。今求められているのは、「経験があるから大丈夫」という思い込みを捨て、データと指針にもとづいた実効性のある対策へとかじを切ることである。

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