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【2026年4月以降施行】年金制度改正法が成立 年金制度の課題と主な改正内容を解説

2025/6/23

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【2026年4月以降施行】年金制度改正法が成立 年金制度の課題と主な改正内容を解説

年金制度改正法が2025年6月13日に参議院本会議で可決され成立した。今回の改正では社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化を図ることを目的にしている。働き方や男女差などに中立的で、ライフスタイルや家族構成の多様化を踏まえた年金制度を構築するとともに、所得再配分の強化や私的年金制度の拡充などにより、高齢期における生活の安定を図る。

本記事では日本の年金制度の課題や今回の主な改正内容について解説する。

(1)日本の年金制度とは

日本の年金制度は、国民全体を対象とする「公的年金」と、企業や個人が任意で加入する「私的年金」に大別される。公的年金はさらに、全国民が加入する「国民年金(老齢基礎年金)」と、会社員や公務員などが加入する「厚生年金」に分かれている。

国民年金は、20歳以上60歳未満のすべての国民が対象であり、定額の保険料を納めることで、老後に基礎的な年金を受給できる制度である。一方、厚生年金は、給与に応じた保険料を納めることで、基礎年金に加えて報酬比例部分の年金を受給できる仕組みになっている。

また、企業年金や個人型確定拠出年金iDeCo)などの私的年金は、公的年金を補完する役割を担っており、老後の生活資金の多様化に対応している。

(2)日本の年金制度の課題

日本の年金制度は、少子高齢化の進行や非正規雇用の増加、ライフスタイルの多様化などにより、以下のような課題を抱えている。

少子高齢化による財政の持続可能性

日本の年金制度は「賦課方式」を基本としており、現役世代が支払う保険料によって高齢者の年金給付を賄う仕組みである。この方式は人口構成が安定している場合には機能するが、日本では急速な少子高齢化が進行しており、制度の持続可能性に深刻な影響を与えている。

「高齢社会白書」によれば、2024年10月現在で65歳以上の人口は3,624万人。全人口の約3割を占める。高齢者が増加する一方で、年金制度を支える15〜64歳の現役世代は、1995年の8,716万人をピークに、その後減少し、現在では7,373万人になっている。2人の現役世代で1人の高齢者を支える状況は、今後もこの支え手の人数が減り続け、2070年には1.3人で1人を支えることになると推計される。

年金財政のバランスが崩れ、将来的には、保険料の引き上げや給付水準の引き下げが避けられない可能性もある。制度の安定性を確保するための抜本的な改革が求められている。

・働き方の多様化への対応不足

近年、働き方の多様化が進み、正規雇用以外の形態で働く人が増加している。特に、パートタイム労働者、契約社員派遣社員フリーランスなどの非正規雇用者は、厚生年金の適用対象外になるケースが多く、老後の所得保障に格差が生じている。

厚生年金に加入していない場合、受給できるのは国民年金のみであり、月額の支給額は約6万円程度とされている。これでは生活費を賄うには不十分であり、非正規雇用者の老後の貧困リスクが高まっている。また、企業規模や勤務時間によって加入資格が制限される現行制度は、柔軟な働き方を阻害する要因にもなっている。

制度の公平性を確保するためには、就労形態にかかわらず、一定の収入や勤務実態があれば厚生年金に加入できるような仕組みへの転換が必要である。

・男女間や家族構成による格差

年金制度には、性別や婚姻状況によって給付内容に差が生じる部分が存在する。例えば、遺族年金制度では、夫を亡くした妻が受給できるケースが多い一方で、妻を亡くした夫が受給できる条件は厳しく、男女間で不公平な扱いが指摘されてきた。

また、事実婚や同性婚など、従来の「夫婦と子ども」という家族モデルに当てはまらない世帯に対する制度的な対応が不十分である。これにより、現代の多様な家族構成に対応できていないという課題が浮き彫りになっている。

年金制度は、すべての国民に対して公平であるべきであり、性別や婚姻形態にかかわらず、同等の権利と保障が得られるよう制度設計の見直しが求められている。

・私的年金の利用促進の課題

公的年金だけでは老後の生活資金として不十分であることから、私的年金の重要性が高まっている。代表的な制度としては、企業年金やiDeCoがあるが、これらの制度の利用は依然として限定的である。

その理由として、制度の複雑さや加入手続きの煩雑さ、税制優遇の理解不足などが挙げられる。企業年金は、企業が一定の掛金を負担する必要があることから企業規模によっては負担が大きい。中小企業での導入率は低く、企業間格差が生じている。

iDeCoは2022年5月の制度改正により、加入可能年齢が65歳未満まで引き上げられた。また、2024年12月施行の制度改正では、企業年金制度に加入している会社員や公務員などの拠出限度額が月額2万円まで引き上げられ、加入手続きも簡素化された。それでもなお、2025年4月末時点での加入者数は約365万人にとどまっており、制度の普及には課題が残されている。

(3)今回の主な改正内容

2025年6月に成立した年金制度改正法では、直面する課題に対応するため、以下のような改正が盛り込まれている。(カッコ内の記載は施行予定時期)

社会保険の加入対象の拡大(2027年10月以降)

これまで厚生年金健康保険の適用対象外だった中小企業のパートタイム労働者にも、段階的に加入機会が広がる。いわゆる「106万円の壁」の撤廃である。具体的には、企業規模要件(従業員数)や賃金要件(月収8.8万円以上)などの制限が緩和・撤廃される。企業規模要件は2027年10月以降、段階的に緩和され、2035年10月には従業員数10人以下の企業まで適用対象が拡大される予定である。

また、個人事業所における「非適用業種」(農業、林業、漁業、宿泊業、飲食サービス業等)の区分も2029年10月の撤廃を予定しており、常時5人以上を雇用する事業所は原則として社会保険の適用対象になる。これにより、フリーランスパートタイム労働者など多様な働き方をする人々が、より公平に社会保険制度の恩恵を受けられるようになる。

・在職老齢年金制度の見直し(2026年4月)

在職老齢年金制度とは、年金を受給しながら働く高齢者の収入が一定額を超えると、年金の一部が支給停止される制度である。今回の改正では、2026年4月以降、この支給停止基準額が、これまでの月50万円から月62万円に引き上げられる。これにより、新たに20万人が老齢厚生年金を全額受給できるようになると試算されている。

この見直しで、働く意欲のある高齢者が年金の減額を気にせずに就労を継続できる環境が整備される。高齢者の労働参加を促進し、年金制度の財政基盤の強化にもつながると期待される。

遺族年金の見直し(2028年4月)

従来の遺族厚生年金では、男女間で受給要件に差があり、特に男性遺族が受給できるケースは限定的だった。2028年4月の施行を予定している、今回の改正では、この男女差を解消し、一定の要件を満たす男性遺族も遺族厚生年金の受給対象となる。

また、子どもが遺族基礎年金を受け取りやすくなるよう、収入要件の撤廃や同一生計要件の柔軟化などにより支給要件の緩和も行われる。これにより、子どもを育てる遺族家庭への支援がより手厚く、柔軟なものになる。

・標準報酬月額上限の段階的引き上げ(2027年9月以降)

厚生年金の保険料や給付額の計算に用いられる「標準報酬月額」の上限が段階的に引き上げられる。これまでの上限は月額65万円だが、2027年9月に68万円に引き上げ、その後1年ごとに71万円、75万円と段階的に引き上げられる予定である。

これにより、高所得者がより多くの保険料を負担することになり、現役時代の収入に見合った年金給付が可能になる。所得再分配機能の強化とともに、制度の公平性が向上する。

・私的年金の見直し(政令で定める日に施行)

iDeCoの加入可能年齢が、現行の65歳未満から70歳未満に引き上げられる。これにより、定年延長や再雇用などで働き続ける高齢者も、iDeCoを活用して老後資金を形成できるようになる。

また、企業年金の運用状況の「見える化」(情報開示)も進められる。これにより、加入者が自らの資産形成状況を把握しやすくなり、制度への信頼性が高まる。

・子の加算額等の見直し(2028年4月)

これまで、年金制度における子の加算額は、第2子までが年間234,800円、第3子以降が78,300円と定められていたが、改正後は一律で281,700円に引き上げられる。これは、子育て世帯の経済的負担を軽減し、遺族家庭への支援を強化することを目的とした措置である。特に、ひとり親世帯や若年遺族家庭にとっては、生活の安定に直結する重要な改正といえる。加算額の引き上げにより、実質的な給付水準が向上し、子どもの健やかな成長を支える環境整備が進むことが期待される。

一方で、女性の社会進出や共働き世帯の増加など、家族構成や扶養関係の変化を踏まえ、年下の配偶者を扶養する場合の老齢年金の加算額は、現行の408,100円から367,200円へと引き下げられる。これは、制度の公平性を確保し、支援の重点を子育て世帯に置くための見直しである。

・基礎年金の底上げ措置

衆議院での審議過程において、将来の年金財政検証で基礎年金の給付水準が低下する可能性がある場合に備え、厚生年金の積立金を活用して基礎年金の底上げを図る措置が付則として追加された。

この措置は、制度の持続可能性と給付水準の安定を両立させるためのセーフティネットとして位置づけられている。ただし、国庫負担分の財源確保や制度運用の透明性など、今後の課題も残されている。

(4)まとめ

今回の年金制度改正法は、社会経済の変化に対応し、より公平で持続可能な年金制度を構築するための重要な一歩である。働き方の多様化や家族構成の変化に対応し、所得再配分機能を強化することで、すべての国民が安心して老後を迎えられる社会の実現を目指している。

今後は、改正内容の着実な施行とともに、制度の運用状況を注視し、必要に応じたさらなる見直しが求められる。企業や個人にとっても、年金制度の理解と対応がますます重要になる時代が到来している。

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