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トラック運転手の健康診断は企業が守るべき義務 実施頻度や検査項目を解説

2026/5/7

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トラック運転手の健康診断は企業が守るべき義務 実施頻度や検査項目を解説

トラックは車体が大きく重量もあるため、交通事故を引き起こした場合、乗用車と比べて重大な事故につながりやすい。近年では、トラック運転手が脳疾患、心疾患、意識消失などを発症したことが原因で起こる「健康起因事故」が増加傾向にある。

トラック運転手の健康管理は、歩行者や一般ドライバー、トラック運転手を守るだけでなく、企業の信頼やイメージを高めることにもつながる。中でも、健康診断労働安全衛生法により企業に実施が義務づけられている。

本記事では、法律で定められているトラック運転手の健康診断についての解説をはじめ、重要性や、企業が行うべき健康管理について紹介する。

(1)企業はトラック運転手に健康診断を受けさせる義務がある

事業者は労働安全衛生法にもとづき、従業員に対して医師による健康診断を実施する義務がある。トラック運送事業者も例外ではなく、トラック運転手に対して、医師による健康診断を実施しなければならない。

また、貨物自動車運送事業法では、疾病等により安全な運転ができない恐れのある状態で事業用自動車を運転させることを防止するため、事業者に必要な措置を講じることを求めている。健康診断を受診させていないまま乗務させた場合、この義務に反する状態に該当する。

トラック運転手を健康診断未受診のまま乗務させた場合、未受診者数に応じて、車両停止などの処分が事業者に科される。

未受診者数 初違反 再違反
1人 警告 10日車
2人 20日車 40日車
3人以上 15日車×未受診者数 30日車×未受診者数
  • ※「○日車」とは、事業用自動車○台を1日停止、または同等日数の停止を意味する
  • ※未受診者が多数の場合、行政処分基準にもとづき、未受診者数に応じた日車数が算定される

さらに、次のいずれかに該当する状態で健康起因事故が発生した場合には、より重い行政処分が科される。

  • ‐事故発生日から過去1年以内に、法定の健康診断を受診させていなかった場合
  • 健康診断で「要再検査」「要治療」等の所見があったにもかかわらず、再検査や治療を受けさせないまま乗務させていた場合

この場合、初違反で40日車、再違反で80日車の車両停止処分となる。

(2)法律で定められているトラック運転手の健康診断

ここでは、法律により定められているトラック運転手に対する健康診断を実施するタイミング・項目・結果に応じた対処法について解説する。

・トラック運転手に健康診断を受けさせるタイミング

労働安全衛生規則により、企業はトラック運転手に対して、以下の健康診断を実施することが義務づけられている。

健康診断 実施のタイミング 概要
雇い入れ時の健康診断 入社時 過去3カ月以内に実施している場合は、結果を提出すれば重複する項目は不要。
雇用後の定期健康診断 1年以内ごとに1回 正社員全員が対象。(パートアルバイトも条件に該当する場合は対象)
特定業務従事者の健康診断 半年以内ごとに1回 深夜業(午後10時~翌朝5時)に従事する以下のいずれかに該当する運転手が対象。
‐1カ月に4回以上深夜業をすることがある
‐6カ月に24回以上深夜業をすることがある

正社員のトラック運転手は、全員が健康診断の対象である。パートアルバイトで雇用する運転手は、次の条件の両方に該当する場合は健康診断を実施しなければならない。

  • ‐1年以上雇用している(雇用する予定である)
  • 正社員の4分の3以上の労働時間がある

なお、短時間労働者でも、深夜業に従事する運転手は、特定業務従事者の健康診断の対象とされる可能性がある。

・トラック運転手に必要な健康診断の11項目

労働安全衛生規則で定められているのは、以下の11項目である。

  • ①既往歴・業務歴の調査
  • ②自覚症状・他覚症状の有無
  • ③身長・体重・腹囲・視力・聴力検査
  • ④胸部エックス線検査・喀痰(かくたん)検査(雇い入れ時は胸部エックス線検査のみ)
  • ⑤血圧測定
  • ⑥貧血検査
  • ⑦肝機能検査
  • ⑧血中脂質検査
  • ⑨血糖検査
  • ⑩尿検査(糖・蛋白の有無)
  • ⑪心電図検査
  • ※定期健康診断における、③のうち身長・腹囲、④⑥⑦⑧⑨⑪については、それぞれの基準にもとづき、医師が必要でないと認める場合は省略できる

これらの検査は、一般的な企業で実施される健康診断と同様の内容である。

・検査結果に応じた対処法

結果が「異常なし」の場合は問題ない。「要経過観察」「要再検査」「要精密検査」「要治療」の場合は、運転手の安全を守るためにも、企業として法令を順守するためにも再検査や治療を促す。

また労働安全衛生法では、医師の意見や、運転手の状態などを踏まえて、対策を講じることが義務づけられている。

  • ‐勤務場所の変更
  • ‐業務内容の変更
  • ‐勤務時間の短縮
  • ‐深夜業の回数を減らす

状態に合わせて対策を講じ、適切に調整することが重要である。

(3)トラック運転手に対する健康診断の実施

ここでは、トラック運転手の健康診断の実施手順と費用について解説する。

健康診断の手順

年間の計画を立て、漏れなくスムーズに実施する。

  • ①年間計画の作成

    :受診時期の重複や漏れがないよう計画を立てる。半年以内ごとに1回受ける必要がある運転手の見落としがないよう注意が必要。
  • 医療機関決定・予約

    :法律で定められている検査をすべて行える医療機関を選ぶ。
  • 健康診断当日

    :勤務と重ならないようにあらかじめシフトを作成・調整しておく。
  • ④結果の通知

    :本人へ速やかに結果を伝える。
  • ⑤検査結果に応じた対処

    :必要に応じて業務を調整する。
  • ⑥結果の保存

    労働安全衛生法労働基準法により結果を保存することが義務づけられており、一般的な健康診断の結果は5年間保存する必要がある。「要配慮個人情報」に該当するため、取り扱いに注意して情報漏えいを防ぐ。

健康診断は実施するだけでなく、結果に応じた対処や結果の保存も重要である。

・法律で定められた健康診断の費用は企業が全額負担する

健康診断労働安全衛生法で定められた、企業の義務である。そのため、法律で義務づけられている健康診断の費用は、全額を企業が負担する。

健康診断にかかる費用は、トラック運転手1人につき4,000円~10,000円程度が目安である。(一般的な定期健康診断の場合)

(4)トラック運転手が受ける健康診断の重要性

トラック運転手の健康診断は、法律により義務づけられているため、順守するためにも実施する必要がある。それに加え、市民やトラック運転手の安全を守り、さらには企業の健全な経営を継続するためにも重要である。

・健康状態に起因する事故を防ぐ

健康状態が悪化していると、意識消失、判断力・集中力の低下、居眠り運転などにつながり、重大な事故を引き起こしかねない。

国土交通省の資料によると、近年も健康起因事故は一定数発生しており、心疾患や脳疾患によるものが多い。睡眠時無呼吸症候群や、視野障害なども事故につながる恐れがあるため注意を要する。健康診断を実施し、結果に応じた対策を講じ、健康起因事故を防ぐことが求められる。

・企業の信頼性向上や人材確保に影響する

重大事故は、企業イメージの低下や信頼を失うことにつながる。結果的に、ほかのトラック運転手の離職や、新規採用に影響し、さらに損害賠償リスクが生じる可能性もある。トラック運転手の健康管理は、信頼性を高め、健全な経営を継続するためにも重要である。

・トラック運転手に多く見られる病気

不規則な生活や長時間の座位、運動不足、食事の乱れ、睡眠不足などにより、トラック運転手は生活習慣病(高血圧症、糖尿病、脂質異常症など)にかかりやすい傾向がある。生活習慣病が進行すると、心筋梗塞や脳卒中を突然発症し、重大事故につながりかねない。

また、睡眠不足や、腰痛なども運転中の集中力や判断力を低下させる恐れがある。安全運転のためにも、健康管理が欠かせない。

(5)企業が行うトラック運転手の日常業務における健康管理

ここでは、企業が取り組むべき健康管理を解説する。

・点呼

運行管理者(または補助者)が行う点呼は貨物自動車運送事業輸送安全規則により義務づけられている。

乗車前には、以下を確認する必要がある。

  • ‐酒気帯びの有無
  • ‐安全運転ができない恐れの有無(疾病・疲労・睡眠不足など)

体調不良は、声に変化が現れやすいため、声の調子も確認する。体調不良の運転手は、運転させてはならないため、代わりの運転手への依頼方法を明確にしておくことが重要である。

・運転時間や休息時間の確認

運転時間や休息時間は、厚生労働省が公表している改善基準告示(正式には「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」という)により定められている。

主な基準は、以下のとおり。

‐連続運転時間:最大4時間まで

4時間経過直後は30分以上の休憩を取って、運転を中断する必要がある。30分以上の休憩は分割することが可能だが、1回あたりの休憩は10分以上でなければならない。

‐1日の運転時間:9時間以内

1日あたりの運転時間は、特定の日を起点として2日間の平均で算出される。

‐1日の休息時間:努力義務として11時間以上、9時間を下回らない

運転手が勤務を終えた後は、休息を継続して11時間以上与えるように努め、9時間より短くなってはならない。

健康管理のためにも、決められた運転時間や休息時間を守れているかを確認する。

・トラック運転手の健康意識を高める

トラック運転手自身が健康を意識することも重要である。全日本トラック協会の「トラックドライバー セルフケアチェックシート」を利用すると、血圧・睡眠・食事・服薬について記録でき、日常の健康管理に役立つ。

さらに、食事・運動・睡眠などの生活習慣に関する研修や情報提供も、健康意識の向上に有効である。

(6)トラック運転手の健康診断に関するよくある質問

Q1.トラック運転手が健康診断を受けないとどうなりますか?

トラック運転手が健康診断を受けないまま業務に従事した場合、事業者は行政処分の対象になる可能性があります。特に、未受診の状態で健康起因事故を起こした場合は、車両停止などの重い処分が科される場合もあります。

また、企業の安全管理体制が問われ、社会的信用の低下にもつながるため、注意が必要です。

Q2.トラック運転手の健康診断は会社負担ですが?

法律で義務づけられている健康診断については、企業が費用を全額負担する必要があります。これは「労働安全衛生法」にもとづく事業者の義務であり、従業員に自己負担させることは適切ではありません。

ただし、任意で追加する検査については、会社と従業員の取り決めによる場合もあります。

Q3.健康診断で異常があった場合、運転できなくなりますか?

必ずしも直ちに運転できなくなるわけではないですが、医師の意見にもとづき業務内容の見直しが必要になる場合があります。例えば、深夜業の制限や勤務時間の短縮、配置転換などが想定されます。

(7)まとめ

トラックは車体が大きく重量もあるため、交通事故を引き起こした場合、乗用車と比べて重大な事故につながりやすい。近年では「健康起因事故」が増加している。

トラック運転手の健康管理は、歩行者や一般ドライバー、トラック運転手自身を守るだけでなく、企業の信頼や経営を守るためにも重要である。特に健康診断労働安全衛生法により義務づけられており「雇い入れ時の健康診断」「定期健康診断」「特定業務従事者の健康診断」を実施する必要がある。

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