注目が集まるリスキリング 企業は充実した公的支援を活用するチャンス
2025/4/9

(1)リスキリングとは
リスキリングとは、既存の職業能力を再開発し、新たなスキルや知識を習得することを指す。特にデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展に伴い、従来の業務内容が大きく変わる中で、従業員が新しい技術や知識を身につけることが求められている。リスキリングは、単なるスキルアップとは異なり、職務や役割の大幅な変更に対応するための学び直しである。
リスキリングは、リカレント教育や生涯学習とも異なる。リカレント教育は、社会人が必要なタイミングで学び直すことを指し、主に個人のキャリアアップを目的とする。一方、リスキリングは企業主導で行われ、企業の戦略に沿った形で従業員のスキルを再構築することが特徴である。また、生涯学習は、人生を通じて行うあらゆる学びを指し、リスキリングのように特定の職務や役割に直結するものではない。
(2)リスキリングが注目される理由
リスキリングが注目される背景には、急速なデジタル化とAI技術の進展がある。これにより、ビジネス環境が大きく変化し、多くの企業が新たなスキルを持つ人材を必要としている。特にDXの推進により、デジタル人材の確保が急務となっており、リスキリングはその解決策のひとつとして注目される。
リスキリングが世界的に知られるようになったのは2018年に開催された世界経済フォーラム年次総会(通称ダボス会議)において。リスキリングが重要な議題として取り上げられた。さらに2020年の同会議では「リスキリング革命」が発表され、注目を集めることとなった。その発表では、第4次産業革命に伴う技術の変化に対応した新たなスキルを獲得するために、2030年までにより良い教育、技能、仕事を10億人に提供できるようにすることを目標に掲げた。
(3)日本の労働市場の課題
日本の労働市場の課題として、少子高齢化に伴う労働力不足、長時間労働による過労死、雇用形態による格差、地方から都市への人口流出、大企業と中小企業間のデジタル格差などが山積している。
中でも労働力不足はこれまでも度々指摘されている重要な課題のひとつ。これまで日本での労働力不足は、戦後において、1970年代前半の高度経済成長期末期、1980年代後半から1990年代前半にかけてのバブル経済期、そして2010年代から現在までの3つの期間で顕在化している。高度経済成長期末期やバブル経済期は、日本経済の急成長により、多くの労働者を必要とした。そして、現在は、2010年代から日本経済が緩やかに回復し、労働力需要が増加。さらに少子高齢化が生産年齢人口の減少に拍車をかける。
少子高齢化は、2025年以降、団塊の世代(戦後の第1次ベビーブーム、1947~49年にかけて生まれた世代)が75歳以上の後期高齢者になることでさらに加速。厚生労働白書によれば、2020年に7,509万人(総人口の59.5%)いた生産年齢人口は、2045年には5,832万人(同53.6%)、2065年には4,809万人(同52.5%)になることが見込まれるという。総人口に占める割合がほぼ半分に迫るのだ。
(4)日本におけるリスキリングの取り組み
危機的な労働力不足に直面する日本においてもリスキリングへの関心が高まっている。2022年6月、政府、自治体、企業が一体となって、日本リスキリングコンソーシアムを設立。同組織は、リスキリングのための、様々な企業によるトレーニングプログラム、就職支援、幅広い就業機会などを提供している。
- ※参考:日本リスキリングコンソーシアム
さらに、同年10月には、岸田文雄首相(当時)が所信表明演説において、リスキリング支援として、5年間で1兆円の人への投資を表明。人への投資は、同首相が掲げた「新しい資本主義」の柱のひとつ。成長分野への労働移動を促進して、産業構造を転換し、労働生産性の向上を図るものだ。その後を継いだ石破茂首相もまた、所信表明演説でリスキリングなど人への投資を強化することに言及しており、政府による取り組みは継続している。
(5)政府が後押しするリスキリング支援
企業がリスキリングに活用できる主な公的支援は以下のとおり。
- ・人材開発支援助成金
- 人材開発支援助成金は、企業が従業員に対して職業訓練を実施する際に利用できる助成金。以下のコースがある。
- ①人材育成支援コース:職務に関連した知識や技能を習得させるための訓練。
- ②教育訓練休暇等付与コース:従業員が有給の教育訓練休暇を取得して訓練を受ける場合に支給。
- ③人への投資促進コース:デジタル人材や高度人材を育成する訓練などに対する助成。
- ④事業展開等リスキリング支援コース:新規事業の立ち上げなどに必要な知識・スキルを従業員に訓練させる場合に支給。
- 2025年4月からは、この助成金を利用しやすくするために、賃金助成額の拡充(①~③)、有期契約労働者等に対する助成メニューの経費助成率の見直し(①)、申請手続きの簡素化などが行われた。
- ※参考:[厚生労働省]人材開発支援助成金
- ・ 特定求職者雇用開発助成金《成長分野等人材確保・育成コース》
- 障害者や高齢者などの就職困難者を成長分野の業務に従事させる場合に支給する。特定求職者雇用開発助成金のほかのコースより高額の助成金が支給される。
- ・IT導入補助金(経済産業省)
- 中小企業や小規模事業者がITツールを導入する際に利用できる補助金。リスキリングの一環として、従業員が新しいITツールを習得するための研修やトレーニングに対しても支援が行われる。
企業はこれらの公的支援を活用し、リスキリングを積極的に推進することで、競争力を高めるチャンスを得ることができる。リスキリングは、企業と従業員双方にとって大きなメリットをもたらす重要な取り組みである。
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