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人事異動に強制力はあるのか? 人事異動で気をつけるべきこと

2025/3/12

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人事異動に強制力はあるのか? 人事異動で気をつけるべきこと

(1)人事異動の目的

人事異動は、企業が組織の効率性や生産性を向上させるために行う重要な施策のひとつ。人事異動には以下のケースがある。

転勤:
従業員を異なる勤務地に変更する。
昇進・降格:
従業員の役職や地位を変更する。
配置転換:
同じ会社内での職種や部署に変更する。
出向:
従業員が現在の会社に籍を残しながら、関連会社や取引先など他の会社で業務に従事する。
転籍:
従業員が現在の会社を退職し、関連会社や子会社などに籍を移す。

主な目的として以下が挙げられる。

・経営戦略の実現
企業の経営戦略や事業戦略にもとづき、人材を適切に配置することで、組織全体の目標達成を促す。例えば、新規事業の立ち上げや事業拡大に伴う人材の配置転換などが含まれる。
・人材育成
従業員のスキルや経験を多様化させるために、異なる部署や職務を経験させることがある。これにより、従業員の職務遂行能力が向上し、将来的なリーダーシップを育成することができる。
・組織の活性化
長期間、同じ部署や職務にとどまることで生じるマンネリ化を防ぎ、組織全体の活力を維持するために人事異動が行われる。新しい環境での挑戦が従業員のモチベーションを高める効果もある。
・不正防止
同じ業務を長期間担当することで生じる不正のリスクを軽減するために、人事異動が行われることがある。定期的な異動により、業務の透明性が向上し、不正の発見や防止につながる。
・労働力の最適化
特定の部署で人員が過剰または不足している場合、異動によって労働力を最適化し、組織全体の効率を向上させることができる。

(2)人事異動を拒否できるのか?

企業は従業員に対して「人事権」を有している。人事権とは従業員の採用、配置、評価、昇進・降格、異動解雇など、人事に関する決定を行う権限のこと。企業の裁量が大きく、就業規則や労働契約に異動に関する規定が明記されていれば、原則的に従業員は人事異動を拒否できない。

例外的に拒否できるケースの例は以下のとおり。

人事権の乱用
異動の理由が業務上の必要性にもとづかず、懲罰的な目的や嫌がらせを含む場合、人事権の乱用と見なされることがある。この場合、異動命令は無効となる可能性がある。
・職種やエリアを限定した雇用契約
採用時に職種や勤務地を限定した雇用契約を結んでいる場合、その範囲を超える異動命令は無効である。
・合理的な理由のない賃金減額
異動に伴って合理的な理由のない賃金減額が発生する場合、その異動命令は無効となる可能性がある。賃金減額が合理的でない場合、労働条件の不利益変更として人事異動を拒否することができる。
・介護や育児などのやむを得ない事情
家族の介護や育児が必要な場合、遠隔地への転勤命令はその必要性や代替手段の有無を慎重に検討する必要がある。特に、育児・介護休業法にもとづく配慮が求められる。
・健康上の理由
従業員自身の健康状態が異動により悪化する可能性がある場合、異動命令を拒否することが認められることがある。例えば、特定の病院での治療が必要な場合などが該当する。

(3)人事異動で注意すべきこと

就業規則や労働契約に異動に関して規定されていれば、従業員の同意なく、業務命令として人事異動を行うことはできるが、その一方で従業員の意に沿わない場合、以下の問題が生じる可能性がある。

・従業員のモチベーション低下
不本意な異動や適性に合わない配置が行われると、従業員のモチベーションが低下し、生産性が落ちることがある。
離職率の上昇
異動により従業員が不満を抱き、最悪の場合、退職を選択することがある。特に、異動先でのサポートが不十分な場合、離職率が上昇するリスクが高まる。
・労使トラブルの発生
異動が不当であると感じた従業員が、労働組合労働基準監督署に訴えることがある。これにより、企業と従業員の間で法的なトラブルが発生する可能性がある。
・企業イメージの悪化
従業員の不満やトラブルが外部に漏れると、企業の評判が悪化する可能性がある。これにより、採用活動やビジネスチャンスに悪影響を及ぼすことがある。

(4)円滑に人事異動を行うために

円滑に人事異動を行うためには、以下の点に配慮すべきである。

・従業員への十分な説明
異動の理由や目的、異動後の業務内容や勤務地などを従業員に明確に説明することが必要。従業員が納得しやすくなるよう、丁寧に説明を行う。
・個別の事情を考慮
従業員の家庭状況や健康状態など、個別の事情を考慮することが重要。特に、介護や育児などの理由で異動が困難な場合は、柔軟な対応が求められる。
・法令順守
労働契約法労働基準法などの関連法令を順守することが不可欠。異動に伴う労働条件の変更については、従業員の同意を得る必要がある。
・適切なタイミング
異動のタイミングも重要。年度末やプロジェクトの終了時など、業務に支障が出にくい時期を選ぶことが望ましい。
・サポート体制の整備
異動に伴う転居や新しい業務への適応を支援するためのサポート体制を整えることが重要。例えば、転居費用の補助や研修の実施などが考えられる。
・コミュニケーションの強化
異動先の上司や同僚とのコミュニケーションを円滑にするための取り組みが必要。異動前に顔合わせの機会を設けるなど、スムーズな移行をサポートする。
・情報漏えいの防止
異動に関する情報が漏えいしないよう、適切な管理を行うことが重要。特に、異動が決定する前に情報が漏れると、従業員の不安を招く可能性がある。
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