職場にはびこるハラスメント あなたの会社は大丈夫?
2025/1/29

(1)ハラスメントとは
ハラスメントとは、他者に対して不快感や苦痛を与える行為を指す。職場におけるハラスメントは、労働環境を悪化させ、被害者の精神的・身体的健康に深刻な影響を及ぼすことがある。
厚生労働省が2023年度の調査報告として発表した「職場のハラスメントに関する実態調査」(有効回答数7,780件)によれば、過去3年間にハラスメントに関する相談があった企業は、64.2%に上るパワーハラスメント(パワハラ)を筆頭に、セクシャルハラスメント(セクハラ)が39.5%、カスタマーハラスメント(カスハラ)が27.9%と続く。
(2)代表的なハラスメント
パワハラは、職務上の地位や権限を利用して他者に対して行われる嫌がらせやいじめのこと。以下の3つの要素をすべて満たす行為と定義される。
- ・優越的な関係を背景とした言動:職務上の地位や権限を利用して行われる。
- ・業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの:業務の遂行に必要な範囲を超えた不適切な行為。
- ・労働者の就業環境が害される:身体的・精神的に苦痛を与え、就業環境を悪化させる。
パワハラの代表的な行為は以下のとおり。
- ・身体的な暴力:暴行や傷害。
- ・精神的な攻撃:脅迫、名誉毀損、侮辱、ひどい暴言。
- ・人間関係からの切り離し:隔離、仲間外し、無視。
- ・過大な要求:業務上、明らかに不要なことや遂行できないことの強制。
- ・過小な要求:業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じること。
- ・個の侵害:私的なことに過度に立ち入ること。
セクハラは、性的な言動や行為によって他者に不快感を与える行為のこと。セクハラは、男性から女性へのものだけでなく、女性から男性、または同性同士でも発生する。
セクハラの代表的な行為は以下のとおり。
- ・容姿に対する言及:外見や服装についての不適切なコメント。
- ・身体的な接触:同意なく肩や髪など身体に触れる行為。
- ・性的な冗談:性的な内容の冗談やコメント。
- ・性別に対する言及:性別にもとづく差別的な発言。
- ・デリケートな情報への言及:個人のプライベートな情報に関する不適切な質問やコメント。
マタハラは、妊娠・出産・育児休業に関連する嫌がらせやいじめのこと。男性の育児休業の場合はパタニティハラスメント(パタハラ)という。
マタハラの代表的な行為は以下のとおり。
- ・制度の利用を妨げる:産前産後休業、育児休業等の利用に関するネガティブな言動。
- ・不当な業務の押し付け:体に負担のかかる仕事や残業を強要すること。
- ・職場での孤立:妊娠や育児を理由に、職場で無視や排除をする行為。
- ・妊娠を理由とする解雇や配置転換:解雇を示唆したり、不当な配置転換を行うこと。
ケアハラは、介護をしている従業員に対して嫌がらせを行うことを指す。介護と仕事の両立を妨げ、従業員の精神的・身体的健康に深刻な影響を与えることがある。
ケアハラの代表的な行為は以下のとおり。
- ・制度の利用を妨げる:介護休業等の利用に関するネガティブな言動。
- ・不当な業務の押し付け:過度な業務負担を強いる、能力に不相応な仕事を与える。
- ・職場での孤立:介護を理由に、職場で無視や排除をする行為。
- ・介護を理由とする解雇や配置転換:解雇を示唆したり、不当な配置転換を行うこと。
カスハラは、顧客や取引先からの暴行、脅迫、暴言、不当な要求など、理不尽で著しい迷惑行為を指す。職場のハラスメントは社内の問題にとどまらない。このような行為は、従業員の精神的・身体的健康に深刻な影響を与え、職場環境を悪化させる原因となる。
カスハラの代表的な行為は以下のとおり。
- ・暴言や脅迫:怒鳴り声をあげたり、侮辱的な発言をする。
- ・身体的な暴力:蹴る、殴る、物を投げつけるなどの行為。
- ・不当な要求:過剰なサービスや特別な待遇を求める。
- ・長時間の拘束:長時間にわたるクレーム対応を強いる。
- ・インターネット上での中傷:SNSなどで従業員を中傷する投稿を行う。
- ・差別的な言動:性別や人種、年齢などにもとづく差別的な発言。
- ・性的な言動:性的な冗談やコメント、身体的な接触。
(3)ハラスメントと法律
ハラスメントは、単なる嫌がらせやいじめにとどまらず、法的に問題となる場合も多い。社会全体でハラスメントに対する意識が高まっており、法的な整備や企業の取り組みが進んでいる。
- ▽パワハラ
- 労働施策総合推進法(正式名称は「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」)の第30条の2により、パワハラを防止する措置を企業に義務づけている。労働施策総合推進法はパワハラ防止法とも呼ばれ、2020年6月に施行。当時は大企業を対象としたが、2022年4月から中小企業も対象になった。
- ▽セクハラ
- 男女雇用機会均等法(正式名称は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」)の第11条によりセクハラの防止措置を企業に義務づけている。男女雇用機会均等法は、2007年4月施行の改正でセクハラの防止措置の義務化が盛り込まれ、さらに2020年6月施行の改正で、防止措置の強化やセクハラに含まれる範囲の拡大(取引先、顧客、患者、学校の生徒等)がなされた。
- ▽マタハラ
- 従業員に対する不利益な取り扱いを、妊娠・出産を理由とする場合は男女雇用機会均等法の第9条第3項、育児休業の場合は育児・介護休業法(正式名称は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」)の第10条等で禁じている。また、企業のハラスメント防止措置については、妊娠・出産を理由とする場合は男女雇用機会均等法の第11条の2、育児休業の場合は育児・介護休業法の第25条で義務づけている。
- ▽ケアハラ
- 介護休業を理由とする従業員に対する不利益な取り扱いを、育児・介護休業法の第10条等で禁じ、企業のハラスメント防止措置については、育児・介護休業法の第25条で義務づけている。
また、当然ながら他人に損害や危害を与えた場合は、民法や刑法が適用される。
- ▽民法
- 第709条により、他人の権利や利益を侵害し、損害を与えた場合に適用される。ハラスメント行為が被害者に損害を与えた場合、加害者は損害賠償責任を負うことになる。
- ▽刑法
- 刑法では以下の罪が適用される可能性がある。
- ・第204条:傷害罪。暴行によって他人に傷害を負わせた場合に適用される。
- ・第208条:暴行罪。暴行を行った場合に適用される。
- ・第230条:名誉毀損罪。他人の名誉を毀損する行為に適用される。
- ・第231条:侮辱罪。公然と他人を侮辱する行為に適用される。
(4)まだまだあるハラスメント
ハラスメントは、相手が不快に感じれば、行為者の意図に関係なく、ハラスメントになる可能性があるため、非常に多様化し、次々に新たな形態が生まれている。
- ▽モラルハラスメント(モラハラ)
- モラハラは、精神的な嫌がらせやいじめを指す。例えば、無視や排除、過度な批判や非難、人格否定などが含まれる。モラハラは、被害者の自己肯定感を低下させ、職場でのパフォーマンスに悪影響を及ぼすことがある。
- ▽リモートハラスメント(リモハラ)
- リモハラは、リモートワーク中に発生するハラスメント行為を指す。具体的には、ビデオ会議中にプライベートな背景や服装に言及する、業務時間外に対応を強要する、オンライン飲み会への参加を強制するなどの行為が含まれる。リモートワークの特性上、周囲から発見されにくいという問題がある。
- ▽ジェンダーハラスメント(ジェンハラ)
- ジェンハラは、性別や性自認にもとづく差別的な言動や行為を指す。職場などで、特定の性別に対する偏見や思い込みにもとづく発言や行動が含まれる。例えば、女性に対して「女性だからこの仕事は無理だ」と言ったり、男性に対して「男らしくない」と非難することが挙げられる。
- ▽レイシャルハラスメント(レイハラ)
- レイハラは、人種や民族、国籍を理由にした嫌がらせや差別的な言動を指す。具体的には、特定の人種や民族に対する侮辱的なコメント、不当な待遇を行うことが含まれる。
- ▽就活ハラスメント(就ハラ)
- 就ハラは、就職活動中に企業の採用担当者等から受ける不適切な言動や行為を指す。例えば、面接でプライベートな質問をされたり、内定の見返りに不当な要求をされたりすることが含まれる。また、過度なプレッシャーをかけられたり、他社の内定を辞退するよう強要されることもある。
- ▽アルコールハラスメント(アルハラ)
- アルハラは、飲酒を強要したり、飲酒に関する不適切な言動を行うことを指す。職場の飲み会等の集まりで、飲みたくない人に対して無理に飲ませようとする行為や、飲酒を断った人を非難することが含まれる。
(5)「ハラスメント」という言葉の浸透による弊害
「ハラスメント」という言葉が浸透することで、従業員一人ひとりが自分の言動に注意を払うようになる。また、被害者は自分が受けている行為が不適切であると認識しやすくなるため、会社や関係機関に相談しやすくなるといった効果が期待できる。
その一方で以下のような弊害も生じる。
- ・過剰な指摘によるストレス
- ハラスメントを防ぐ意識が高まりすぎると、些細な言動もハラスメントとして指摘されることがある。これにより、職場の人間関係がぎこちなくなり、従業員がストレスを感じる可能性がある。
- ・コミュニケーションの減少
- ハラスメントを恐れて、従業員同士のコミュニケーションが減少することがある。これにより、チームワークが損なわれ、業務の効率が低下する可能性がある。
- ・指摘の乱用
- ハラスメントの指摘が乱用されると、本来の目的である職場環境の改善が妨げられることがある。例えば、個人的な対立や不満を解消する手段としてハラスメントの指摘が使われることがある。
この「指摘の乱用」は、「ハラスメント・ハラスメント(ハラ・ハラ)」と呼ばれ、ハラスメントのひとつの形態として分類される。
(6)ハラスメントを防止するために
職場のハラスメントを防止するためには、以下の対策が効果的である。
- ・基本方針の策定と周知
- ハラスメント防止の基本方針を明確にし、すべての従業員に周知徹底。これにより、全員が同じ認識を持つことができる。
- ・相談窓口の設置
- ハラスメントに関する相談窓口を設置し、従業員が気軽に相談できる環境を整える。匿名での相談も受け付けることで、被害者が声を上げやすくなる。
- ・従業員教育
- 定期的にハラスメント防止に関する研修やセミナーを実施し、従業員の意識を高める。
- ・現状の把握
- 社内アンケートや面談を通じて、ハラスメントの現状を把握し、問題点を明確にする。これにより、具体的な対策を講じることができる。
- ・迅速な対応
- ハラスメントの報告があった場合、迅速かつ適切に対応し、被害者の保護と再発防止に努める。事実関係の確認と適切な処分が重要になる。
- ・コミュニケーションの促進
- 職場内のコミュニケーションを活性化し、従業員同士の信頼関係を築くことが、ハラスメントの予防につながる。
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