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変わりゆく日本の雇用システム ジョブ型雇用は日本になじむのか?

2025/2/5

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変わりゆく日本の雇用システム ジョブ型雇用は日本になじむのか?

(1)日本を支えたメンバーシップ型雇用の限界

日本の雇用システムは、第二次世界大戦が終結した1945年以降、長らく「終身雇用」「年功序列賃金」「新卒一括採用」の三本柱を中心に構築されてきた。このシステムは、戦後の高度経済成長期において、日本企業の競争力を支える重要な要素であった。

終身雇用は、企業が従業員を定年まで雇用し続けることを前提とし、従業員に安定した職業生活を提供する。年功序列賃金は、勤続年数に応じて賃金が上昇する仕組みであり、従業員のモチベーションを維持する役割を果たす。また、新卒一括採用は、企業が毎年一度に多くの新卒者を採用し、長期的な視点で人材を育成してきた。

この雇用システムは「メンバーシップ型雇用」と呼ばれる。メンバーシップ型雇用では、業務内容や勤務地などを限定せず採用し、その人材に対して企業が業務を割り振る。異動ジョブローテーションなどで、長期的に人材の育成を行い、労働力を確保する。終身雇用年功序列賃金が前提だった時代には適した仕組みであった。

しかし、1990年代以降、バブル経済の崩壊や少子高齢化の進行、グローバル化の影響により、日本の経済環境が大きく変化。これにより、終身雇用年功序列賃金といった制度が企業にとって大きな負担となった。さらに2000年代に入ると、IT技術の進展やサービス業の台頭により、労働市場の変化が加速。メンバーシップ型雇用の限界が一層顕著になった。

(2)ジョブ型雇用の登場

こうした背景の中で、注目されたのが「ジョブ型雇用」である。ジョブ型雇用とは、従業員が特定の職務や役割にもとづいて採用され、その職務内容にもとづいて評価される雇用システムのこと。欧米諸国で一般的なこのシステムは、職務ごとに必要なスキルや経験を明確にし、その職務に最適な人材を採用することを目的としている。

2020年9月に経済産業省が公表した「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書~人材版伊藤レポート~」において、多様な価値観や専門性を持つ人材を獲得し、その人材に活躍してもらうためにジョブ型雇用の促進を提言している。

ジョブ型雇用   メンバーシップ型雇用
特定のスキルや経験を重視 採用基準 ポテンシャルや適応力を重視
職務遂行能力、成果 評価基準 年功序列、勤続年数
専門職としてのキャリア形成 キャリアパス 社内異動や昇進が一般的
職務や成果にもとづく賃金 給与体系 年功序列賃金
職務が明確なため柔軟性に欠ける場合も 柔軟性 柔軟な人材配置が可能
成果が出ない場合の解雇リスク リスク 経済変動に対応しにくい

(3)ジョブ型雇用に関する日本政府の動き

日本政府は近年、ジョブ型雇用の導入を促進するための政策を積極的に推進している。主な動きは以下のとおり。

・経済財政運営と改革の基本方針2022
2022年6月に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針2022)では、ジョブ型雇用が多様な働き方の一つとして言及された。この方針では、労働契約関係の明確化や専門知識を持った新卒学生の活躍を促進するための就職・採用方法の検討、フリーランスが安心して働ける環境の整備などが挙げられている。
・岸田首相の施政方針演説
2023年1月に行われた岸田文雄首相の施政方針演説では、「日本型の職務給」の導入が言及された。首相は、労働市場改革を進めるために、職務に応じたスキル評価と賃金反映の重要性を強調し、企業に対して準備を進めるよう呼びかけた。
・新しい資本主義実現会議
2024年6月に閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」において、ジョブ型人事指針を策定する旨を定め、同年8月に公表。ジョブ型人事指針には、それの意義や導入事例などが含まれる。

ジョブ型雇用の導入により、企業は専門性の高い人材を確保しやすくなり、業務の効率化や生産性の向上が期待できる。また、従業員にとっても、自分のスキルやキャリアを明確にしやすく、専門性を高めることができるというメリットがある。

その一方で、ジョブ型雇用にはデメリットも存在する。まず、職務が明確に定義されているため、柔軟な人材配置が難しくなることがある。特に、職務の範囲があいまいな業務では、ジョブ型雇用の導入が困難である。また、成果主義の評価が導入されるため、従業員にとっては成果を出すプレッシャーが大きくなり、ストレスを感じやすい側面がある。さらに、業績に依存するため、成果が出ない場合や職務が不要になった場合に解雇されるリスクが高まる。

(4)新たなシステム「スキルベース組織」

ジョブ型雇用の次に注目されているのが「スキルベース組織」である。スキルベース組織は、従業員の持つスキルを中心に組織を構築・運営する新しい雇用システムのこと。ジョブ型雇用で仕事の最小単位であったジョブ(職務)をタスク(作業)まで分解し、従業員のもつスキルとタスクをマッチングさせる考え方である。

スキルベース組織の導入により、企業はプロジェクトやタスクごとに最適なスキルを持つ人材を柔軟に組み合わせることができるため、効率的かつ創造的な業務遂行が可能になる。また、従業員にとっても、自分のスキルを最大限に生かすことができるため、キャリアの幅が広がり、モチベーションの向上が期待できる。

スキルベース組織の導入には、まず、従業員のスキルを正確に把握し、適切に評価するためのシステムが必要になる。また、スキルベースの評価が導入されるため、従業員にとってはスキルの向上が求められ、継続的な学習が必要だ。

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