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医療現場の有休管理を効率化するためには? 現状や課題も併せて解説

2025/7/16

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医療現場の有休管理を効率化するためには? 現状や課題も併せて解説

医療現場では多忙な業務と緊急対応が日常茶飯事であるため、有給休暇を取りにくい風土が形成されやすい。結果として「休みたいのに休めない」状態に陥り、心身の疲労が蓄積しやすい。そこで注目したいのが、有休管理を効率化するための仕組みづくりである。

結論としては、シフト管理や代替要員の確保を含めた総合的な運用を整えれば、スタッフが計画的に休みを取得しやすくなる。本記事では、医療現場における休日・休暇制度の実態から具体的な有休管理の方法について解説する。

(1)医療機関の休日・休暇制度について

医療現場では法的基準に加えて、患者の受診ニーズやシフト制の特性に応じて休日・休暇制度が運用される。一般企業と比べて勤務形態が複雑なので、制度上の休日数と実際の取得状況が乖離している場合も少なくない。

ここでは、最新の就労条件総合調査(厚生労働省)のデータをもとに、週休や年間休日数の傾向と併せて、有給休暇取得の現状を見ていく。数字だけでなく、実際の働き方やスタッフの忙しさにも着目すると、制度と運用の食い違いが明確になりやすい。

週休2日制を採用している医療機関が多い

医療・福祉業界では、約9割の労働者が週休2日制を採用する職場で働いているとされる。これは法律上の基準を満たす形で制度化している機関が多いためであり、スタッフが一定のペースで休めるよう配慮している証拠でもある。

実際の勤務は日勤と夜勤が交互に組まれるケースが多く、表面的には週休2日でも交替制の疲労がたまりやすい点に注意が必要である。また、部署によって休日のタイミングが異なると、同じ週休2日でも別の日程で休みを取得するなど統一感を持ちにくい。こうした背景により、実際には「週休2日の恩恵を十分に感じられない」との声も聞かれる。

制度としては整備されていても、有給休暇の取得率向上にはさらなる対策が欠かせない。休暇と連動した人員配置の工夫があれば、週休を安定して確保すると同時に休暇申請もしやすくなり、スタッフの心身の負荷を確実に軽減できるはずである。

・年間休日は100日以上の職場が96%

医療・福祉業界全体で見ると、年間休日が100日以上の職場が96%とされる。平均で年間113.6日なので、一見すると一般的な企業と大差ないようにも思えるが、24時間365日体制で患者対応を行う病院や施設では、実際の運用が数字どおりにいかない場合がある。

例えば、夜勤のシフト明けに休みが設定されていても、その翌日に急な出勤要請が重なることがあり、名目上の休日数と真の休日数が乖離する恐れがある。また、スタッフの配置に余裕がない施設だと休日に研修を組むなどして、実質的に休めない状態に陥る可能性がある点も見逃せない。

こうした実態は長く働き続ける上で負担を増大させる要因となり、結果的に休暇申請や有給休暇の取得をさらに難しくする。従来の数字だけではとらえ切れない実態を踏まえ、余力あるシフトや作業割り当てを検討するのが重要である。

・有給休暇の平均取得日数は年間11日

医療・福祉業界における有給休暇の平均取得日数は年間11日とされる。実態としては、女性の取得率が男性よりやや高い傾向にあることも報告されているが、家庭や育児との両立を図るために休暇を活用しやすい側面があるからだと考えられる。

一方で、夜勤や当直など不規則な働き方を続ける男性スタッフには「休みたいが業務を優先させる」との姿勢が根強く、取得を先延ばしにする場面が目立つとの声もある。こうした傾向は組織全体の雰囲気を左右し、「休みたくてもほかの人に迷惑をかけたくない」との心理的抑制が広がりやすい。

結果として、一部のスタッフが疲弊しながらも休暇を取れない状況を生みやすくなる。平均取得日数をさらに増やすためには、管理者側が休暇取得を推奨する態度を明確化し、具体的に取得しやすい仕組みを整える必要がある。

(2)医療現場の有休管理の課題

有給休暇の取得率を上げるには、医療現場特有の課題を認識しなければならない。緊急対応が不可欠であることや、シフトが複雑になりがちな点、アナログで行われる休暇管理の非効率性など、複数の要因が絡み合う。

ここからは、こうした要素がどのように休暇取得を妨げるかについて紹介する。

・緊急事態による対応が起きやすい

医療施設では、患者の急変や救急搬送といったイレギュラーな状況が頻繁に発生する。結果として、休日や有給休暇を取っていても呼び出しがかかるなど、真に休めないケースが起きやすい。スタッフの人数が十分でない環境だと、一人の休暇が全体の業務効率に大きく影響するため、申請そのものをためらうケースも多い。

命に直結する仕事であるだけに「自分がいないと困るのではないか」と感じやすく、気軽に休暇を申し出られないとの心理的ハードルが存在する。また、緊急事態の多さがスタッフ間の有給休暇取得のタイミングを偏らせる原因にもなる。

例えば、慢性的に人手不足である場合、有給休暇取得を考慮するより先に「次の急患に対応できるか」が優先事項となり、休みたくても休めない状態に陥りやすい。こうした構造的な要因を踏まえ、事前の対策と連絡体制の徹底が不可欠である。

・シフトが複雑になりやすい

医療の現場では職種や専門領域が多岐にわたり、看護師薬剤師臨床検査技師など多くのスタッフが連携している。そのため、単純な日勤・夜勤の2交替制だけではなく、部署や担当によって細かく異なるシフトを組む必要が生じる。

さらに、複数フロアや外来・病棟といったセクションに分かれる組織では、それぞれの人員配置に応じて別々のシフト表を作成する場合がある。こうした複雑性の中で休暇の調整を行うのは容易ではなく、だれかが休むたびにほかのスタッフの負担が増える可能性がある。

結果的に「休暇を申請するなら、周囲に迷惑がかからないよう日程を選ばなければならない」と気遣うあまり、スタッフが遠慮してしまう要因になる。このような空気を放置すると、有給休暇の取得率改善がますます困難になっていく。根本的には、人員配置に余裕を持たせるか、シフト作成を効率化する仕組みを整えるなどが大切である。

・休暇のリアルタイム管理が難しい

紙の台帳やエクセルで休暇申請を集約すると、承認状況の更新が遅れたり、重複申請が見落とされたりしやすい。管理者が複数いる職場や、看護師長と事務部門の連絡が分断されている病院などでは、二重管理や入力ミスのリスクも高まる。

結果として「自分の休暇が確定しているのかわからないまま日程が迫る」といった事態に陥り、最終的には休暇を諦めるケースが生じる。このように、リアルタイムで情報を共有できない状態が続くと、だれがどれだけ休みを取っているのかを全体で把握しづらくなる。

さらに、管理が煩雑になるほど、「これ以上の混乱を招くのは避けたい」という心理が働き、取得申請を控えるようになり、結果として負のサイクルに陥りやすくなる。休暇管理をスムーズに行うには、オンラインでの即時反映やアラート機能を備えたシステムの導入が有効な手段になる。

(3)医療現場の有休管理を円滑にする方法

休暇の申請をスムーズに行える環境が整えば、有給休暇の取得率は自然に上昇しやすい。医療現場における特有の事情に合わせた対策を講じ、スタッフが安心して休暇を活用できる状態をつくることが重要である。ここでは、計画的な取得からシステム導入、代替要員の確保など、実務に役立つ具体策を解説する。

・取得計画を早めに立てる

労働基準法において、年10日以上の有給休暇が付与されるすべての労働者に対して、年5日の取得を義務化しているにもかかわらず、医療機関ではその5日すら確保できない職場があるのも事実である。そこで大切なのは、スタッフそれぞれの希望を年度初めにヒアリングし、繁忙期や人員配置を考慮して休暇を設定する計画性である。

早い段階で「この日は休む」と明確にしておけば、管理者は代替要員のアサインやシフト調整を進めやすくなる。年末や大型連休付近は特に混雑するため、その時期の取得計画を先に固めておくと全体の負荷を平準化しやすい。

また、計画を共有する際には個々の業務内容や専門資格の有無を確認し、休むスタッフと残るスタッフの配置をバランスよく行うことが大切である。こうした取り組みが徹底されれば、有給休暇取得への抵抗感は大幅に低減するはずだ。

・シフトをリアルタイムで共有できるようにする

シフトや休暇の共有をクラウド上で管理すると、管理者とスタッフが同じタイミングで最新情報を確認できる利点がある。従来の紙ベースの管理では書き換えや追記が煩雑で、だれが、いつ、どのように修正したかを追跡しづらい。

オンライン化すれば、休暇申請の承認ステータスや空き枠などを即座に把握可能であり「この日は休むのに問題がなさそうだ」との判断がしやすい。また、スマートフォンからアクセスできるシステムであれば、外出先や夜勤中でも変更を確認でき、スタッフ同士の連絡ミスを防ぎやすい。

さらに、休暇の重複や人員不足が発生しそうな場合にはアラートを出す機能を備えたサービスも存在する。こうした取り組みを導入すると、管理者の作業負担も減り、スタッフ全体の安心感を高められる。

・代替要員を確保しておく

急な休暇取得にも対応できる職場づくりには、事前の代替要員確保が欠かせない。常勤スタッフ同士で連携し合うほか、パート派遣の活用、あるいは他部署からの応援を得る仕組みを整えると心強い。実際に、忙しい診療科のフォローを別の診療科のスタッフが担えるよう研修を実施している病院もある。

こうした体制があれば、特定の人が休んだときに業務が回らなくなるリスクを下げられ、結果として「休むのが申し訳ない」と感じるスタッフの負い目も軽くなる。加えて、業務マニュアルや手順書を整備しておけば、だれかが欠員になっても一定の質を保ちやすい。

多忙な医療現場だからこそ、「だれが休んでも業務が回る」体制づくりを推し進めることが、有給休暇の取得率向上への近道になる。

・タイミングや曜日を選ぶ

医療現場で休暇を取りやすくするには、業務が比較的落ち着く時期や曜日を把握するのが重要である。例えば、外来患者が少ない曜日や手術の予定が少ない週に合わせて休暇を組むと、周囲への負担を軽減しやすい。実績データから混雑傾向を分析しておき、スタッフ同士が互いの動向を共有すると、休暇を取るタイミングを調整しやすくなる。

さらには、緊急時などに代替要員が必要になる可能性を見極めてから休むことで、現場の混乱を最小化できる。工夫を続ければ「自分が休むと他者に迷惑がかかるのでは」との遠慮が薄れ、結果としてリフレッシュを目的とする休暇が取得しやすくなる。無理なく休める日を選ぶことは、忙しい医療現場において心身を回復させるためにも大切な要素である。

(4)医療機関向け勤怠管理システムの導入も一つの手段

医療機関向けの勤怠管理システムは、勤務形態が多様化した病院において強い味方になる。正確な労働時間の把握や不正打刻の防止に加え、シフト作成の自動化機能を備えるサービスも多く、管理担当者の作業時間を大幅に削減できることが特徴である。

さらに、過重労働を防ぐためのアラートが出るシステムであれば、法律で定められた上限を超えるリスクを事前に察知し、早めに配置転換や残業削減を検討できる。医療現場では様式9の自動作成など特有の手続きにも対応している製品が増えており、法令順守や働き方改革を進めたい管理者にとって大きなメリットになる。

システムが整備されれば、有休管理をはじめとする労務面でのトラブルを未然に防ぎ、スタッフが気持ちよく休暇を活用しやすい環境を形成できるだろう。

(5)まとめ

医療現場では、緊急対応の多さやシフトの複雑さが有給休暇取得を阻む大きな要因となる。しかし、計画的に休みを確保し、シフトや勤怠管理をオンライン化するなど、いくつかの対策を積み重ねれば着実に休暇取得率を高められる。

代替要員を事前に確保しておく取り組みや、曜日や時期を選んだ休暇申請の徹底も有効である。対策によってスタッフが安心して休める状態を築けば、疲労軽減や士気向上につながり、長期的に質の高い医療サービスを提供できるようになるだろう。

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