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医療機関の人手不足にどう対応する? 原因・リスク・対策を紹介

2025/7/2

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医療機関の人手不足にどう対応する? 原因・リスク・対策を紹介

日本の医療現場では、慢性的な人手不足が深刻な社会課題となっている。特に地域医療や急性期医療の現場では、必要な人員が確保できず、現場の疲弊が顕著である。

本記事では、人手不足の原因を多角的に分析するとともに、想定されるリスクと、医療機関が取りうる具体的な対策について解説する。

(1)医療機関が人手不足になる原因

日本の医療機関における人手不足は、深刻な社会課題となっている。少子高齢化の進行、医療従事者の労働環境、医療技術の高度化など、複数の要因が複雑に絡み合って、現場の人材確保を困難にしている。ここでは、医療機関が人手不足に陥る主な原因を解説する。

・日本の少子高齢化による労働力不足

急速に進む高齢化により、医療・介護ニーズの増加と人手不足の深刻化が懸念されている。2035年には、65歳以上の高齢者が3,773万人に達するとされ、総人口の約3人に1人が高齢者となる見通しである。

一方で、生産年齢人口は減少の一途をたどっており、医療・介護を支える労働力が大幅に不足する状況が予測される。さらに、寝たきりや認知症の高齢者も増加傾向にあり、医療・介護ニーズは今後ますます高まると考えられる。

このような需要の増加に対し、供給側の人材確保が追いつかず、医療業界全体で深刻な人手不足が懸念されている。

・過酷な労働環境による離職率の高さ

医療従事者が直面する過酷な労働環境も、人手不足の大きな要因になっている。長時間労働や休暇取得の困難さがあることで、医療従事者モチベーションを低下させ、離職意向を高めている。人手不足が離職を招き、さらに人手が減るという悪循環が深刻化するだろう。

加えて、看護補助や医療事務などの職種では、介護業界や一般企業との間で人材獲得競争が激化しており、医療機関から他業界へ人材が流出しやすい状況にある。訪問看護や遠隔診療といった新たなサービス形態も、従来の医療機関勤務から人材を引き離す要因になっている。

医療従事者が担う業務範囲の拡大

進化する医療技術と業務範囲の拡大が、医療従事者への負担と人材確保の難しさを増大させている。新しい治療法や医療機器の導入が進む中、従事者は常に最新の知識と技術の習得を求められている。

また、医療現場ではチーム医療の重要性が高まっており、患者対応だけでなく多職種との連携や事務的な業務など、多様なタスクをこなす必要がある。これにより、現場の負担がさらに増し、医療従事者の確保と定着がますます難しくなっている。

・医療技術の高度化による人材育成の難易度向上

高度化する医療に対応できる人材の育成が難しくなり、人材確保がより困難になっている。感染症対策、患者および家族への支援、リスクマネジメントなど、従来よりも広範な知識と実践力が求められている。

このような複雑かつ高レベルのスキルを持つ人材は限られており、その育成には長期間と高コストがかかる。したがって、必要な人材を迅速に現場に送り込むことが難しく、人手不足の解消が容易でないのが実情である。

・日本は世界的に医師が不足

日本の医師数はOECD平均を大きく下回り、先進国の中でも特に医師不足が深刻である。このため、都市部では医師にかかる負担が過大となり、地方では医師そのものが確保できないといった課題が生じている。

・地域や診療科間の医師数の偏り

医師不足に加えて、地域や診療科ごとの医師数に大きな格差があり、医療提供体制の偏在が課題となっている。都市部には医師が集中しやすい一方で、地方では人材確保が難しく、医療提供体制の維持が困難な地域も少なくない。都市部に人材が集中する背景には、給与水準の高さ、生活環境の利便性、キャリアアップの機会といった要素がある。

また、診療科によっても医師の偏りが顕著に見られる。麻酔科、精神科、放射線科などは医師数が大きく増加している一方で、外科や産婦人科は長年にわたり低調な傾向が続いている。外科や産婦人科は、時間外勤務や急患対応が多く、業務負担が大きいことから敬遠されやすく、医師の増加率が伸び悩んでいると考えられる。

(2)医療機関の人手不足が引き起こすリスク

近年、医療機関における人手不足は、深刻化の一途をたどっている。これは単にスタッフの業務負担を増加させるだけでなく、医療の安全性やサービスの質、さらには組織運営そのものにまで影響を及ぼす。ここでは、人手不足が引き起こす主なリスクについて解説する。

・医療事故が発生しやすくなる

医療現場において人手不足が続くと、スタッフ一人ひとりの業務負担が増し、精神的・肉体的疲労が蓄積しやすくなる。業務負担の増加によりスタッフの集中力が低下し、医療事故のリスクが高まる。

医療事故は、患者の生命や健康に深刻な影響を与えるだけでなく、医療機関や従事者に対する信頼を失墜させる要因ともなり得る。さらに、事故の内容によっては多額の損害賠償請求や施設の閉院に至るケースもあるため、医療安全を確保する上でも、必要な人員を常に確保することは欠かせないのである。

・医療サービスやサポートの質が低下する

人手不足が進行すると、医療サービスの質が低下し、安全面でのケア不足や患者対応の時間不足が生じやすくなる。こうした状況は患者の不満につながり、悪い口コミやクレームの増加といった形で医療機関の評判を損なうリスクがある。また、医療事務や受付など間接部門においても対応の質が低下し、会計ミスや手続きの遅延が生じる可能性が高まる。

・新規採用の減少や離職率の上昇を促進させる

少子高齢化と人口減少により医療業界では売り手市場が続き、医療機関の採用活動がさらに難しくなっていく。人手不足による過重労働が続くと、医療従事者離職率が上昇し、さらに人手不足を悪化させる悪循環につながる。

医療機関が優秀な人材を確保するには、他機関との差別化のために、魅力をアピールしていくことが不可欠である。

一方で、既存スタッフに過重労働が強いられる状況が続くと、職場への不満が高まり、離職意向を強める結果になる。このような負のスパイラルは、ますます採用を困難にし、人手不足を加速させていく。

医療機関の格差拡大につながる

人手不足と収益の問題が絡み合い、給与や福利厚生、職場環境に差が生じ、医療機関間での格差が拡大していくことが考えられる。優秀な人材を引きつけるためには、給与水準や福利厚生、職場環境の充実が欠かせない。

こうした環境整備には資金と労力が必要であるが、慢性的な人手不足によって収益が不安定な医療機関では、それらのリソースを十分に確保することが難しい。その結果、環境整備が進まず、さらなる人材流出や評判低下を招くという悪循環が生じている。

結果として、体制の整った医療機関とそうでない機関との間で格差が拡大し、地域医療全体の不均衡にもつながっているのである。

(3)医療機関の人手不足に対応する方法

医療現場における人手不足は、多方面に深刻な影響を及ぼしている。しかし、状況をただ嘆くのではなく具体的な改善策を講じることが重要である。ここでは、医療機関の人手不足に対応する方法について解説する。

・医療スタッフの賃金引き上げ

医療従事者の離職理由として「賃金が低い」という点は常に上位に挙げられている。つまり、賃金の引き上げは離職率低下に重要な要素であり、経営側が賃金改善のために支援を検討することが求められている。

ただし、医療機関の中には経営的余裕がなく、大幅な給与改善が困難なケースも多い。そのような場合には、国や自治体の支援制度を活用することも一つの選択肢だ。経営側はこうした制度を最大限に活用し、スタッフの処遇改善を検討すべきであろう。

福利厚生の充実

充実した福利厚生制度の見直しは、医師や看護師離職率低下に効果的であり、職場の環境を整えることが重要だと言える。働く環境の快適さや生活との両立を支援する体制が整っていれば、スタッフの満足度は向上し、結果として離職防止につながる。

例えば、医療機関内に保育所を設置する、完全個室の寮を用意するなど、家庭の事情に配慮した取り組みが実施されている。また、選択型福利厚生制度を導入することで、個々のニーズに対応できる柔軟性を持たせることも有効だろう。

医療機関ごとの実情に合わせた制度設計を行い、長期的な人材確保に努めるべきである。

・専門的な知識の学習や研修環境の整備

人手不足の状況では、一人あたりの業務量や責任が増すことから、スタッフに不安やプレッシャーがかかりやすい。そのような中で、継続的な研修制度や知識習得の機会を提供することは、安心して業務に臨める環境づくりに大きく貢献するだろう。

とりわけ復職を目指す潜在看護師や、最新の医療機器・システムに対応する必要のあるスタッフにとっては、eラーニングや実技研修などが有効である。また、研修を通じて技術や知識を更新することで、医療の質の向上にもつながる。職場全体の安心感と信頼感をはぐくむためにも、学びの場の整備は必要である。

・デジタル技術導入による業務の効率化

デジタル技術の導入により、医療機関の業務効率化が進み、スタッフの負担軽減が実現できる。例えば、電子カルテの導入やRPAの活用により、業務負担の軽減を実現している事例は多い。

実際、RPAを導入した医療機関では、医師や看護師の間接業務を大幅に削減し、数千時間から数万時間単位の時間創出を実現している。このように、テクノロジーを積極的に活用することで、スタッフの業務負担を軽減し、人手不足の緩和にもつなげられるのである。

(4)まとめ

医療現場の人手不足は、単なる労働力の問題にとどまらず、患者の安全や医療の持続性に直結する重大な課題である。その背景には、少子高齢化による労働人口の減少、過酷な勤務環境、地域による偏りといった複合的な要因が存在する。

今後は、医療従事者の働きやすさを高める制度設計や、デジタル技術の活用、他職種連携の強化など、多角的なアプローチが求められる。医療体制の構築に向けて、行政、医療機関、現場のスタッフが一体となって取り組む姿勢が不可欠である。

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