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医療現場の労務問題とは? トラブル防止と人手不足解消のための対策も紹介

2025/5/28

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医療現場の労務問題とは? トラブル防止と人手不足解消のための対策も紹介

医療機関では、人手不足や過重労働による労務トラブルが多発している。雇用継続の困難、残業代未払いの指摘、配置転換への不満、職場でのハラスメントなど、人事や労務に関する悩みも少なくない。

これらを放置すれば職場環境は悪化し、医療サービスの質の低下や、さらなる人材流出を招きかねない。本記事では、医療現場で発生しやすい労務問題の実態と、トラブル防止および人手不足解消のための対策について解説する。

(1)医療現場で発生しやすい労務問題とは

医療現場で典型的に見られる労務上の問題には、以下のようなものがある。

・雇用の継続や解消について
医療機関ではスタッフの雇用継続が困難になる場合があり、解雇や退職勧奨を検討せざるを得ないこともある。しかし、日本の労働法規では解雇に客観的で合理的な理由が必要とされ、乱暴な解雇は無効と判断されるケースも多い。
例えば、経営悪化による整理解雇であっても、要件を満たさなければ、労使トラブルに発展しかねない。また、人手不足の中でスタッフの退職が相次ぐことも問題である。なお、有期雇用契約の雇い止めも争点となりやすく、継続雇用への期待に配慮した対応が必要である。
雇用契約の終了を巡る争いを避けるため、解雇や退職勧奨は慎重に行い、就業規則の整備や円滑なコミュニケーションによる円満退職の支援が求められる。
・残業代の支払いについて
医療業界では慢性的な長時間労働が問題となり、残業代の支払いを巡るトラブルも起こりやすい。業務が忙しくても残業を適切に申告せず「サービス残業」を続ければ、後から未払い残業代を請求されるリスクが高まる。
労働基準法上、時間外労働には割増賃金の支払いが義務づけられており、勤怠管理の徹底が欠かせない。また、2024年4月から医師の時間外労働時間に上限規制が適用されるなど、医療現場でも長時間労働の是正が強く求められている。
残業代の未払いはスタッフの士気低下や退職だけでなく、訴訟リスクにも直結するため、正確な残業時間の把握と適正な賃金支給に万全を期す必要がある。
・配置転換について
病院では業務上の必要に応じて、部署異動や転勤などの配置転換が行われることがある。しかし、本人の同意なく、一方的に勤務先を変えれば不満が高まり、退職につながるケースもある。
一般に就業規則等で配置転換を規定していれば配転命令は有効とされるが、権利乱用と判断されれば無効になる。特に、遠方への転勤や専門外への異動など、生活やキャリアに重大な影響を及ぼす配置転換は慎重に進める必要がある。
現場では事前に十分な説明を行い、本人の意向も踏まえて配置転換を実施すべきだ。
ハラスメントについて
医療現場におけるハラスメントは深刻な労務問題である。上下関係の厳しい職場では、指導の名目で過度な叱責やいじめにつながるパワーハラスメントが起こりやすく、被害を受けたスタッフが心身の不調から休職・退職に追い込まれる例もある。
女性の多い職場ゆえにセクシュアルハラスメントやマタニティハラスメントの問題も存在し、看過すれば職場全体の士気低下を招く。ハラスメント労働施策総合推進法にもとづき、事業主に防止措置が義務づけられており、医療機関でも研修の実施や相談窓口の設置など積極的な対策が必要である。
ハラスメントのない安全な職場風土を築くことが、人材定着と円滑なチーム医療のためにも不可欠だ。

(2)医療現場の労務問題を解決して人手不足を解消するための対策

医療現場の労務問題を解決し、人手不足を解消するためには、待遇改善や職場環境の見直しが欠かせない。具体的な対策としては次のようなものがある。

・給与や残業代の引き上げ
医療従事者の待遇改善策として、基本給や残業代の引き上げは最も効果的である。公益社団法人日本看護協会の報告書によれば、給与水準が業務量に見合わないと感じるスタッフは多く、看護師の約75%が現行の賃金に不満を抱いているという。
賃金アップは現場スタッフの不満を和らげ、離職防止につながる有効な手段だ。特に、夜勤や長時間勤務に対して適切に報いることは士気の向上と人材定着に直結する。例えば、夜勤手当を増額すれば敬遠されがちな深夜帯シフトへの協力も得やすくなり、人員不足の緩和につながる。
また、給与や手当の増額は他施設との差別化を図り、採用競争力を高めるであろう。
・手当の充実
基本給の大幅な引き上げが難しい場合でも、各種手当の充実によって従業員の待遇改善を図ることができる。医療現場では夜勤や緊急対応など負担の大きい業務が多く、それに見合った手当を支給するのはスタッフのモチベーション維持に直結する。
例えば、夜勤手当、時間外手当、危険手当、住居手当、扶養手当といった生活面の支援や、資格手当、役職手当などキャリアに応じた報酬を手厚く支給すれば、スタッフの働きやすさと意欲の向上につながる。
手当の拡充は実質的に賃金アップと同様の効果があり、金銭面の不満を和らげることにつながる。現場で尽力するスタッフに報いる姿勢を示すことで士気が高まり、離職抑止や人材採用時のアピールにも効果を発揮する。
・柔軟な勤務体制の整備
勤務体制の柔軟化も人材の定着に欠かせない。医療現場では、結婚・出産や親族の介護などライフイベントにより離職を余儀なくされるケースは多いが、働き方に柔軟性があれば退職を防げる可能性が高まる。
例えば、短時間勤務制度や週勤務日数の選択制、フレックスタイム制の導入などにより、育児や介護と仕事を両立しやすい環境を整備する。また、夜勤専従制度やシフト調整の自由度を高めることで、スタッフ各自の事情に応じた勤務が可能となり、人材の継続勤務につながる。
柔軟な勤務体制はワーク・ライフ・バランスの実現に資するだけでなく、復職希望者の受け入れ拡大にも役立ち、人手不足の緩和に貢献する。
・評価制度の整備と見直し
人事評価制度の整備も重要な対策である。評価基準が不透明だったり、昇進・昇給の仕組みがあいまいだったりすると、スタッフのモチベーション低下や不満につながる。そこで評価制度を見直し、公正で納得性の高い仕組みを構築しておくことが求められる。
例えば、職種や経験年数に応じた等級制度を導入し、それにもとづき役割と賃金を明確に定める。評価結果にもとづいて適切な昇給・昇格や賞与配分を行えば、努力が報われる実感が得られ、スタッフのモチベーション向上につながる。
明確な評価基準によって強みや課題も把握しやすくなり、適材適所の配置や効果的な人材育成にも役立つ。整備された評価制度は組織全体の成長と定着率向上につながる。
・研修やスキルアップ制度の充実
スタッフの能力開発を支援する研修制度やスキルアップの機会を充実させることも、人材確保に効果的である。医療の高度化が進む中、最新の知識や技術を習得できる環境はスタッフにとって大きな魅力となる。新人教育の充実、院内外の研修参加支援、資格取得支援、eラーニング導入などにより、スタッフが継続的に成長できる仕組みを整備する。
さらに、キャリア相談制度の整備や学会参加への補助などにより、スタッフのキャリア形成の後押しも有効だ。自身のスキル向上を実感できれば仕事のやりがいが増し、離職の抑制につながる。病院としてもスタッフの技能向上により業務の質と効率が高まり、結果的に少人数でも現場を回しやすくなるメリットがある。
・人材確保の手段拡大
採用手法を多角化するのも人手不足解消に欠かせない。採用チャネルが限られていては、十分な人材プールを確保できないため、あらゆる手段を講じて、採用機会を広げる必要がある。自院の採用サイトや求人広告媒体の活用に加え、人材紹介会社や派遣会社との連携、看護学校との奨学金契約やインターンシップ受け入れ、スタッフの知人紹介制度など、多様なルートから人材にアプローチする。
潜在看護師(有資格だが離職中の人)の復職支援としてナースセンター等の公的機関と連携するのも効果的だ。採用方法の幅を広げることで、これまで接点のなかった層からも人材を確保でき、人手不足の改善につながる。
・医療DXの推進
医療DXの推進も、人手不足解消に有効な手段である。業務にICTを活用して効率化を図れば、限られた人員でも多くの業務をこなせるようになる。例えば、電子カルテオンライン診療システムの導入により、記録業務や患者対応の時間を短縮できる。
RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用して各種事務処理やデータ入力を自動化すれば、スタッフは本来の医療業務に専念できる。AI技術を用いた診断補助や勤怠管理の最適化なども進めば、一人ひとりの負担軽減につながり、長時間労働の是正や離職防止につながる。
DXを推進すると現場の生産性が向上し、人手不足の緩和と医療サービスの質の向上の両立が期待できる。

(3)まとめ

本記事では、医療現場で起こりがちな労務問題とその対策について解説した。雇用管理や職場環境の改善によってトラブルを未然に防ぎ、人材の定着と確保につなげることが可能である。

給与・手当、勤務体制、評価制度、教育制度、採用手法、DX推進など多角的な改善策を組み合わせ、スタッフが安心して働ける職場を実現するのが大切だ。取り組みにより、人手不足の解消と医療サービスの質の向上を両立させることができる。

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