医療機関で取り入れたい福利厚生は? 注目されている理由や代表的な制度を紹介
2025/6/11

近年、医療業界では過酷な労働環境や人材不足が指摘され、スタッフの定着とモチベーション維持が課題となっている。そうした中で、スタッフの満足度向上や人材確保を目的に福利厚生の充実が注目されている。
福利厚生を整備すると、職場環境の改善やスタッフの健康支援、経済的負担の軽減といった効果が期待できる。本記事では、医療機関が福利厚生を導入する理由と、代表的な制度について詳しく解説する。
(1)医療機関で福利厚生が注目されている理由
医療機関で福利厚生が注目される背景には、主に「労働環境」「健康」「経済面」の3つの理由がある。
・労働環境を整備できる
福利厚生の充実は、職場の労働環境を整備する効果がある。なぜなら、スタッフは子育てや介護など様々な事情を抱えて働いており、託児所の併設や短時間勤務制度などの福利厚生を整えることで、そのような事情があっても勤務を継続しやすくなるからである。
例えば、院内に保育所を用意すれば、子育て中のスタッフも安心して働き続けられる。また、家族の介護が必要な場合に介護休業や短時間勤務制度を利用できれば、離職を防ぎ、スタッフが長く勤められるようになる。
以上のように、福利厚生によりスタッフが働きやすい環境が整備されるのである。
・健康をサポートできる
福利厚生はスタッフの健康をサポートする役割も果たす。医療従事者自身、過酷な勤務で体調を崩すリスクがあるため、医療機関がスタッフに対して健康診断や予防接種の機会を提供し、継続的な健康管理を促すことが不可欠だからである。
例えば、福利厚生として毎年の定期健康診断を実施すれば、スタッフは体調面を自己管理しながら勤務を続けやすくなる。また、インフルエンザ予防接種を無料で受けられる制度を設ければ、スタッフはもちろん、その家族の健康まで守ることができる。
このように、福利厚生による健康支援がスタッフの長期就業を支える基盤となるのである。
・経済的な負担を軽減できる
福利厚生の導入はスタッフの経済的な負担を軽減する。給料以外にも住宅費や通勤交通費、研修参加費用などスタッフの負担は多岐にわたるが、福利厚生でそれらを援助すると出費を減らせるからである。
例えば、住宅補助や住宅ローン利子の支援によって住居費と必須の固定費を減らせば、家計の助けとなる。また、医師や看護師が研修に参加する際に、交通費や参加費を病院側が負担すれば、自己負担なく必要な知識を習得できる。
このように、経済面での支援はスタッフの安心感につながり、福利厚生の重要な役割となっている。
(2)福利厚生は大きく2種類に分けられる
福利厚生には大きく2種類ある。「法定福利厚生」と「法定外福利厚生」だ。それぞれの違いや特徴について、以下で詳しく紹介する。
・法定福利厚生
法定福利厚生とは、法律で加入が義務づけられた福利厚生である。具体的には、健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険、介護保険、子ども・子育て拠出金などの社会保険が該当し、企業は一定の条件を満たす従業員に対して、これらを提供する義務を負う。
法定福利厚生は、労働者に最低限の生活保障を提供する制度であり、病気やけがの際の医療給付や失業時の手当、老後の年金給付など生活を支える仕組みが含まれている。なお、法定福利厚生は企業規模や業種に関わらず、一定の条件を満たす従業員の加入を義務づけているので、その内容を正しく理解しておく必要がある。
・法定外福利厚生
法定外福利厚生とは、法定福利厚生以外で企業が任意に提供する福利厚生のことである。法律上の義務はないため内容の自由度が高く、企業によっては独自色の強いユニークな制度を導入している。
一方で、何も導入していない企業も存在する。法定外福利厚生を充実させることにより、従業員の生活の質の向上や働きやすい職場づくりにつなげることができ、人材獲得の訴求力にもなる。自社に適した法定外福利厚生を選んで導入することが、現在の経営において重要なポイントとなっている。
(3)医療機関で取り入れたい福利厚生
医療現場のスタッフに喜ばれる福利厚生にはどのようなものがあるだろうか。ここでは、医療機関で導入が検討される主要な福利厚生項目や、その内容と効果を解説する。
・通勤手当
通勤手当は、スタッフの通勤にかかる交通費を負担する福利厚生である。多くの医療従事者にとって通勤は毎日のことであり、交通費負担は家計にも影響するため、通勤手当によってその固定費を補助する意義は大きい。
例えば、電車やバス利用者には定期券代を支給し、自家用車やバイク通勤者には距離に応じたガソリン代を支給するのが一般的である。また、病院ごとに月額の支給上限額を定めるなど独自のルールを設けている場合も多い。通勤手当を整備すると、スタッフは安心して職場に通勤でき、経済面の不安が和らぐ。
・扶養手当
扶養手当は、スタッフが扶養する家族(配偶者や子ども)に対し、給与とは別に支給される手当である。医師や看護師などが家庭を持って働く場合、子育てや生活費の負担が大きくなるため、その一部を補助するとスタッフの家計を支援できる。
例えば、病院では扶養家族の人数や家族構成に応じて所定の金額を毎月支給し、子どもが多い場合には加算するなどの条件を定めている。扶養手当を設けると、家庭を持つスタッフも安心して働き続けることができ、離職防止や定着率向上につながる。
・住宅補助制度
住宅補助制度(住宅手当)は、スタッフの住居費用を支援する福利厚生である。住居費(家賃や住宅ローン返済)は家計の中で大きな固定支出となるため、その負担を軽減するとスタッフの経済的安心感が高まる。
病院が家賃の一定額を補助したり、寮や社宅を用意して相場より安い家賃で住めるようにしたりするケースがある。引っ越し費用まで負担する病院もあり、社宅の利用は単身に限るなど条件を付ける例も見られる。住宅補助制度によりスタッフの住居負担が減り、安心して勤務に専念できる環境づくりにつながる。
・食事補助
食事補助は、勤務中の食事代を支援する福利厚生である。医療従事者は夜勤や長時間勤務も多く、職場で食事をとる機会が頻繁にあるため、安価で栄養バランスの良い食事を提供するのが健康維持と負担軽減につながる。大規模病院では職員食堂を設置し、手頃な価格で温かい食事を提供している。
一方、規模の小さな病院では食事券を配布してコンビニエンスストア等で利用できるようにするなどの工夫を凝らしている。食事補助によってスタッフは栄養バランスの取れた食事を確保でき、勤務中の負担が軽減される。
・健康増進制度
健康増進制度とは、スタッフの健康管理や増進を支援する福利厚生である。法定の定期健康診断に加えて充実した検診や予防策を提供すると、スタッフが疾病を早期発見・予防し、健康で長期に働けるようにするのが目的である。特に医療従事者は多忙で自身の健康管理が後回しになりがちなため、組織的なサポートが重要になる。
例えば、人間ドック受診費用の補助やがん検診の実施などが挙げられる。病院が高額で時間のかかる人間ドック費用を福利厚生として負担し、スタッフに受診を促すことで病気の早期発見につなげている。
・メンタルサポート
メンタルサポートとは、業務上の精神的ストレスに対し専門家への相談など支援を提供する制度である。医療現場では、緊急性の高い業務が重なると長時間労働となり、肉体的・精神的負担が大きい。そのため、心に不調を感じた際に専門家に相談できる窓口を用意し、早期にケアできるようにする必要がある。
臨床心理士やカウンセラーによる相談窓口を設置し、匿名で悩みを打ち明けられる場を整備する病院もある。メンタルサポート体制を整えることで、スタッフの精神的健康を守り、安心して働き続けられる職場を実現できる。
・医療費補助
医療費補助とは、スタッフやその家族が医療機関を受診した際の自己負担分の医療費を病院が補助する制度である。医療従事者自身も病気やけがで医療を必要とする場合があり、医療費の負担軽減は家計の助けになる。特に、勤務先や関連グループの病院で受診した場合に適用されることが多く、病院ならではの福利厚生と言える。
例えば、スタッフ本人や配偶者・子どもが院内で診療を受けた際、窓口で支払う自己負担額を全額または一定額まで病院が負担する制度が設けられている。医療費補助によって、スタッフは経済的な心配なく必要な医療を受けられ、自身や家族の健康管理に専念できるのである。
・予防接種費用補助
予防接種費用補助とは、季節性インフルエンザなどの予防接種をスタッフが受ける際に、その費用を病院が補助する制度のこと。医療従事者は多くの患者と接するため感染症リスクが高く、予防接種を推進することが、スタッフ自身と患者双方の健康を守ることにつながる。予防接種費用を福利厚生として補助すると、スタッフは積極的に接種を受けやすくなり、体調管理に役立つ。
例えば、毎年のインフルエンザワクチンを無料または低料金で接種できる制度は、病院だからこそ提供できる福利厚生の一つである。予防接種費用の補助によりスタッフの健康維持と感染防止が図られる。
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