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医療機関における就業規則で確認したい事項 掲載項目や作成方法も紹介

2025/5/14

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医療機関における就業規則で確認したい事項 掲載項目や作成方法も紹介

就業規則とは、職場における労働条件や服務規律などを明文化したものであり、労使間のトラブルを未然に防ぐために重要な役割を果たす。医療機関においては、患者対応や専門職の多さといった特有の職場環境に対応した規則づくりが求められる。

本記事では、医療現場で確認すべき就業規則のポイントや、実情に合った就業規則を作成するための方法について解説する。

(1)就業規則とは

就業規則とは、いわゆる職場のルールブックのことで、労働条件や禁止事項を定め、労使間のトラブル防止に不可欠なものである。常時10人以上のスタッフ(正職員・パートアルバイト含む)を雇っている場合、就業規則の作成が義務化されており、労働基準監督署への届出が必要である。

この際、スタッフの過半数から選出された代表者の意見書を添える必要もあるため、準備には時間と配慮が求められる。

(2)医療機関における就業規則で確認しておきたいこと

医療機関では、一般企業とは異なる職場環境やリスクを抱えているため、就業規則に記載すべきポイントも異なる。ここでは、医療現場で働くスタッフが安心して働くために、確認・記載しておきたい内容を3つの区分に分けて解説する。

・絶対的必要記載事項
絶対的必要記載事項とは、就業規則に必ず記載しなければならない事項で、法的要件を満たすためには必須の内容を指す。
  • ‐始業・終業の時刻
  • ‐休憩時間
  • ‐休日・休暇の取り決め
  • 交替勤務制の場合の勤務交替に関する事項
  • ‐賃金の決定・計算・支払い方法
  • ‐賃金の締切日・支払日
  • ‐昇給に関する内容
  • ‐退職や解雇に関する取り決め
なお、記載漏れがあると法的要件を満たさないため注意する必要がある。
・相対的必要記載事項
相対的必要記載事項とは、医療機関が独自に設ける制度やルールに関する内容で、制度化した場合に就業規則に記載が求められるものを指す。
  • 退職金制度がある場合の規定
  • ‐賞与や最低賃金に関する取り決め
  • ‐ユニホーム代や食事代など従業員負担が発生する場合のルール
  • ‐職場の安全衛生管理に関する内容
  • ‐職業訓練や研修制度に関する内容
  • ‐災害補償や私傷病の対応について
  • ‐表彰や懲戒(制裁)に関する方針
制度そのものは任意だが、導入するのであれば必ず明文化しなければならない。
・任意記載事項
任意記載事項とは、法的に明記されていないが、トラブル防止のために医療機関側で記載を決められる重要な内容である。例えば、就業規則がどの雇用形態に適用されるか(正職員、パートアルバイトなど)を明記しておけば、手当や休暇の扱いでの誤解を防ぐことが可能となる。
また、勤務中の態度や身だしなみ、ハラスメントの禁止、機密保持など、スタッフの行動指針となる「服務規律」も、トラブル防止の観点から記載しておきたい。さらに、うつ病などによる休職が発生した場合に備えて、休職や復職に関するルールも定めておくと安心であろう。
任意とはいえ、職場の信頼性やスタッフの安心感を高めるために、必要に応じてしっかり記載しておくことが望ましい。

(3)医療機関の就業規則に掲載したい主な項目

医療機関においては、一般企業とは異なる業務形態や職務内容に応じたルール整備が求められる。日々の業務を円滑に遂行し、労使間のトラブルを未然に防ぐためにも、就業規則には医療現場に即した項目を盛り込むことが重要である。

以下に、医療機関就業規則に記載しておきたい主な項目を示す。

・1カ月変形労働時間制について
変形労働時間制は、特定の繁忙期に長時間働き、閑散期に労働時間を短縮する制度で、導入時に就業規則で始業・終業時刻や休憩時間、休日を定める必要がある。この制度を導入する場合は、始業・終業時刻、休憩時間、休日等について、あらかじめ就業規則に明記する必要がある。
なお、労使協定により運用する場合は就業規則への記載義務はないが、トラブル回避の観点から記載しておく医療機関も多い。
・休憩時間について
医療機関では業務の都合で休憩時間を取りづらいため、交替勤務制で休憩を命じる規定を就業規則に明記することが推奨される。特に患者対応中などは一斉に休憩を取れないため、交替勤務制で休憩を取得させる旨を就業規則に定めておくことが望ましい。
・時間外手当について
時間外手当を巡るトラブルを防ぐため、医療機関の許可なく行った所定外労働は無給とする旨を就業規則に記載し、36協定で時間外労働の範囲を定めることが重要である。また、医療機関が従業員に対して残業を命じる場合には、「36協定の範囲内で時間外労働を命ずることができる」旨を就業規則に記載しておくことが法的にも求められる。
・院内情報の取り扱いについて
医療機関では、患者の個人情報や電子カルテなど、取り扱う情報に機密性が高く、情報漏えいが大きな社会的リスクとなる。そのため、患者情報や電子カルテの取り扱いに関して、機密保持やパソコン等の機器の使用制限を就業規則に明記し、情報漏えいを防ぐための対策を講じることが大切である。

(4)各医療機関にあった就業規則を作成する方法

医療機関において、職場の実情に即した就業規則を整備することは、職員との信頼関係構築やトラブル回避に直結する。一般的な雛形をそのまま使うのではなく、自院の運営体制や勤務形態、職員構成などに応じて適切にカスタマイズされた規則を整備することが望ましい。

以下に、就業規則作成時の主な方法を紹介する。

厚生労働省提供のモデル就業規則を参考にする
厚生労働省提供のモデル就業規則を参考に、自社に合わせてカスタマイズしていく方法がある。「モデル就業規則」は、一般的な労働条件や規定内容が網羅されており、そこから実情に合わせて加筆・修正を行うことで、独自性のある就業規則を作成できる。
なお、モデル就業規則厚生労働省以外にも、国土交通省、商工会、業界団体、社会保険労務士事務所、法律事務所などが無償で公開しており、多様な視点からの参考資料として役立つだろう。
厚生労働省提供の就業規則作成支援ツールを使う
より効率的に就業規則を作成したい場合は、厚生労働省のオンライン支援ツールを利用して、法的要件を満たす、カスタマイズされた就業規則を簡単に作成できる。
これは、法的要件を反映した構成であり、テンプレート形式で必要事項を入力していくことで、自動的にカスタマイズされた就業規則を作成できるシステムである。
社会保険労務士に作成を依頼する
就業規則の作成に専門的な知識が必要な場合、社会保険労務士に依頼して、法的なアドバイスや適切な規定作成をお願いする方法がある。社会保険労務士は、労働基準法をはじめとする労働法規に精通しており、法的に適正かつ現場に即した規定づくりを支援することが可能である。
トラブルを未然に防ぐためのアドバイスを得るには、実務経験のある社会保険労務士への依頼が有効だと言える。
・弁護士に作成を依頼する
法律に関する複雑な問題が生じた場合やリスク管理が必要な場合は、弁護士に依頼することで、労使トラブルや訴訟の際に有効な対応が可能である。弁護士は労働法規に限らず、関連する法的分野全般に精通しているため、医療機関のリスク管理に大いに貢献することだろう。
また、実際に訴訟に発展した際には代理人として対応できるという点も、弁護士に依頼する大きなメリットである。ただし、依頼費用は社会保険労務士よりも高額になる傾向があるため、依頼のタイミングと目的を明確にしておく必要があるだろう。

(5)まとめ

就業規則は、医療機関の職場環境を安定させる上で不可欠な規定である。法的に義務づけられた項目を網羅するだけでなく、医療現場に即した内容を加えることで、職員の安心感と労務管理の質を高めることが可能となる。

作成方法についても、モデル就業規則や支援ツールの活用、専門家への依頼など、目的に応じた適切な手段を選択すべきである。定期的な見直しを行うことで、時代や働き方の変化に柔軟に対応できる体制を築くことが望ましい。

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