病院の労務管理とは? 課題・実務の内容・対策方法などを解説
2025/4/30

病院における労務管理は、単なる人事・勤怠の取り扱いにとどまらず、医療の質や職場環境、さらには経営の安定にも密接に関わる重要な業務である。24時間体制で稼働する医療機関では、夜勤や交替勤務といった特殊な勤務形態に加え、多職種が連携して動く体制が不可欠であることから、労務管理における課題は複雑かつ多様である。
本記事では、病院が直面している労務管理の課題とその背景、実務の内容、さらには組織として取り組むべき対策について解説する。
(1)病院が抱えている労務管理上の問題
病院は医療という高度な専門性を提供する現場であると同時に、組織としてのマネジメントも求められる場所である。しかし、現場では医療の質を保つことが優先されがちで、労務管理などの組織運営に関する課題が後回しになっているケースも少なくない。
ここでは、病院が抱える労務管理上の問題について、具体的な側面から述べる。
- ・病院の現場管理者は現場の業務に追われている
- 現場の管理者は看護師などの専門職である。そのため、日々の診療に追われる中で、労務管理などの業務は後回しになりやすい。
- 事務長や総務担当者などの管理部門の職員もサポートを行っているが、現場の専門知識や日々の運営状況を十分に把握できていないため、現場とのギャップが生じることが多い。
- ・多様な勤務形態が管理を複雑にする
- 夜勤や家庭事情に配慮した柔軟なシフトが求められる一方で、その多様さが労務管理の複雑さを招いている。職員の中には子育てや介護など、家庭の事情を抱える者も多く、個々に対応した柔軟な勤務体制が求められる。
- しかし、このような配慮が積み重なることでシフトのパターンが増え、結果的に管理が煩雑になる。勤務体制が複雑化すると、結果的に全体の把握が難しくなり、労務管理に負担がかかることになる。
- ・専門職間の連携が難しい
- 医療機関には、医師、看護師、放射線技師、臨床検査技師、管理栄養士など、さまざまな専門職がそろっている。各自の専門性が高い反面、職種間の連携が難しく、人間関係や役割分担に課題が生まれやすい環境であるともいえる。
- また、役割分担が明確であるため、他の職種への理解が不足しがちで、人間関係の摩擦や情報共有の遅れが生じることがある。これにより、チーム全体のパフォーマンスや職場環境に悪影響を及ぼすリスクが生じてしまうのである。
- ・現場に経営的視点を持つ人が少ない
- 医療現場では、患者対応が最優先されており、経営的な視点よりも目の前のケアや治療が優先される。患者対応を最優先する医療機関においては、現場に経営的視点を持つ人が少なく、これが労務面の課題にもつながっている。
- 一般企業では、現場の管理者でも経営的な視点を持つことが求められる場合も多いが、医療機関ではその意識が薄れがちなのである。結果として、経営的視点を持った対応が難しくなることがある。
(2)病院の経営に労務管理が欠かせない理由
スタッフの働きやすさを支える労務管理は、職場内でのトラブルや不満の未然防止につながると同時に、医療サービスの質や患者満足度の向上にも寄与する重要な基盤である。
こうした取り組みは、職員の定着率を高め、チームとしてのパフォーマンスを最大限に引き出すことにもつながるため、結果として病院全体の安定的な経営を実現する上で欠かせない要素だといえる。
医療の質の向上は、診療体制や技術的な部分だけでなく、職員の労働環境や働きやすさとも密接に関係している。厚生労働省でも良質な医療提供体制の整備に取り組んでおり、その中には医療従事者の適切な就労環境の整備などの要素も含まれている。
(3)病院における労務管理の実務
病院における労務管理は、スタッフの働きやすさを支える重要な要素であり、経営の安定を図るためには不可欠なものである。特に、医療現場ではシフト勤務や夜勤など、特殊な勤務形態が多いため、適切な勤怠管理とメンタルヘルス対策が求められる。
ここでは、病院の労務管理実務における具体的な取り組みについて説明する。
- ・勤怠管理システムの導入と活用
- 病院では、勤務時間やシフトの管理が非常に複雑である。そのため、病院向け勤怠管理システムの導入は、正確な勤怠記録や打刻管理の実現に欠かせない。
- こうしたシステムを活用することで、シフト管理の負担が軽減され、ミスも減少する。勤怠管理システムの導入は、夜勤の偏り、時短勤務への配慮を行うとともに、IT化による業務効率化などが可能となる取り組みなのである。
- ・メンタルヘルス対応や職員の定着施策
- 職員のメンタルヘルスを適切にケアすることは、個々の健康維持だけでなく、モチベーションの向上や職場への定着率の向上にもつながる重要な取り組みである。精神的な不調を未然に防ぎ、早期に対応する体制を整えることで、離職のリスクを大幅に低減できる。
- メンタルヘルスの適切なケアは、人材の流出を防止し、結果的に組織全体の安定的な運営に寄与することだろう。
- ・管理職や現場責任者への教育とマネジメント強化
- リーダー層への継続的な教育とマネジメント力の強化は、単なる業務遂行能力の向上にとどまらず、現場スタッフとの円滑なコミュニケーションを促進し、信頼関係の構築にも直結するものだ。
- 適切な判断力と指導力を備えたリーダーの存在は、職場全体の連携や士気を高め、結果として組織全体の質の向上へとつながる重要な要素だといえる。
(4)病院が組織として取り組むべき労務管理の対策
医療機関は、24時間体制で運営され、多様な勤務形態や雇用形態が存在することから、労務管理における課題が特に複雑である。過重労働の防止、スタッフの健康維持、法令順守など、多岐にわたる課題に対応するためには、病院全体として組織的に対策を講じる必要がある。
ここでは、病院において取り組むべき労務管理の具体策を示す。
- ・勤務状況の明確化による過重労働の防止
- 労働時間の正確な把握は、過重労働を未然に防止する上で欠かせない要素である。勤怠管理のデジタル化により、勤務実態を正確に把握し、過重労働や打刻漏れのリスクを未然に防ぐことが可能となる。
- 指紋認証や顔認証といった生体認証機能を活用すれば、出退勤の正確性を確保し、不正を防ぐ仕組みが整う。また、リアルタイムで労働時間を管理できるため、過度な残業が発生した際には即座に把握・対応することも可能である。
- さらに、自動集計された勤怠データはグラフで可視化され、残業時間が多いスタッフや部署の特定が容易となる。これにより、適切な是正措置を迅速に講じることが可能となり、過重労働の予防につなげやすくなる。
- ・効率的なシフト作成による事務作業の負担軽減
- 医療機関では、夜勤や宿直、勤務間インターバルなど、特殊な勤務ルールへの対応が求められる。複雑な勤務体系にも対応したシステムの導入は、シフト調整の手間を減らし、現場の負担軽減と人員配置の最適化を実現するものだ。
- 勤務表の作成においては、人員配置基準や職種ごとの制約、スタッフの希望やスキルを考慮する必要がある。そのため、こうした条件に対応したシステムを用いることにより、シフト作成の手間を大幅に削減でき、ミスの発生も防ぎやすくなる。
- また、調整作業の簡略化により、管理者および現場スタッフの業務負担軽減にも役立つだろう。
- ・労務コンプライアンスの強化による信頼性の向上
- 法令順守は、医療機関としての信頼性を高める上で極めて重要である。勤怠管理システムのアラート機能を活用すれば、36協定にもとづく時間外労働の上限などを常時監視でき、法令違反の未然防止が可能となる。
- これにより、スタッフの健康維持と働き方改革への対応を両立させられる。加えて、こうした労務管理の徹底は、医療サービスの質を担保し、患者からの信頼を得る基盤ともなるはずだ。
- ・福利厚生の充実による離職率の低下
- 充実した福利厚生制度の整備は、医師や看護師の離職防止に直結する重要な取り組みとなる。医師や看護師といった専門職の離職を防ぐためには、給与や手当の改善に加え、ライフスタイルや家庭の事情に配慮した福利厚生の見直しが効果的である。
- 家庭の都合などで仕事を辞めざるを得ない状況を防ぐためにも、柔軟で支援的な制度が必要とされる。近年、病院では離職率低下を目的としたさまざまな福利厚生の充実が進んでおり、例として以下のような取り組みがある。
- ‐個室寮の整備:スタッフが安心して働ける環境を提供するため、生活面でのサポートを強化する。
- ‐院内保育所の設置:子育て中のスタッフが仕事と家庭を両立できるよう、保育施設を完備する。
- ‐診療費補助制度:スタッフが自らの健康管理を行いやすくするため、診療費用を一部補助する制度を導入する。
- ‐通勤手当や夜勤タクシー送迎:通勤の負担を軽減するため、夜勤や準夜勤時にタクシー送迎サービスを提供するなど、便利で安全な通勤支援を行う。
- これらの取り組みは、スタッフが長期間働きやすい環境をつくり出すだけでなく、家庭や生活の事情に配慮することで、離職を未然に防ぐ効果を発揮する。実際に、福利厚生制度を見直した病院では、離職率の低下に成功した事例が増えている。
- 職場の環境が整えば、スタッフの満足度も向上し、結果として病院全体の安定した運営につながることだろう。
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