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労務法改正

【2026年10月施行】「106万円の壁」撤廃とは? 企業が押さえるべき実務ポイント

2026/7/31

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【2026年10月施行】「106万円の壁」撤廃とは? 企業が押さえるべき実務ポイント

2026年10月、いわゆる「106万円の壁」が撤廃される。これは、短時間労働者に対する社会保険適用拡大の一環として行われる制度改正であり、多くの企業にとって人事・労務管理上の重要な転換点となる。

これまでパートアルバイト従業員の中には、社会保険加入による手取り減少を避けるため、年収106万円程度を目安に勤務時間や勤務日数を調整するケースが少なくなかった。しかし、今回の改正によって適用判定の考え方が大きく変わることになる。

本記事では、「106万円の壁」の撤廃の概要と背景、企業への影響、実務対応のポイントについて分かりやすく解説する。

本記事のポイント

2026年10月に賃金要件を撤廃

月額88,000円以上の賃金要件がなくなり、社会保険の適用基準が変わります。

週20時間要件がより重要に

賃金要件の撤廃後は、週20時間以上の勤務の有無が適用判定の中心となります。

対象者把握と費用試算が重要

加入者増加による法定福利費の上昇を見据え、早めの準備が求められます。

(1)そもそも「106万円の壁」とは何なのか

「106万円の壁」とは、短時間労働者の社会保険適用要件の一つである「月額賃金88,000円以上」に由来する通称である。年収で換算すると約106万円になることから、このように呼ばれてきた。

現行制度では、短時間労働者が社会保険に加入するためには、次の要件をすべて満たす必要がある。

  • ・週の所定労働時間が20時間以上
  • ・月額賃金が88,000円以上
  • ・従業員51人以上の企業で働いている
  • ・学生ではない
  • ・2カ月を超える雇用見込みがある

このうち「月額賃金が88,000円以上」の要件が、2026年10月に撤廃されることとなった。

近年は最低賃金の引き上げが進み、すべての都道府県で最低賃金(2025年度)が時給1,016円を上回った。その結果、週20時間以上働けば自然に月額88,000円以上となるケースが一般的となり、賃金要件を設ける実質的な意味が薄れていたことも改正の背景となっている。

(2)2026年10月以降、何が変わるのか

今回の改正で撤廃されるのは、あくまでも賃金要件のみである。

そのため、2026年10月以降も以下の要件は継続する。

  • ・週20時間以上勤務
  • ・企業規模要件(ただし今後段階的に縮小・撤廃予定)
  • ・学生除外
  • ・2カ月超の雇用見込み

つまり、「106万円の壁」がなくなることで、週20時間以上勤務という労働時間要件が、社会保険加入を判断する上でより重要な基準となる。例えば、51人以上の企業で週20時間以上勤務しているものの、賃金が月額88,000円未満であったために社会保険の適用対象外となっていた従業員は、改正後に加入対象となる。

一方で、週19時間勤務など、そもそも労働時間要件を満たしていない場合は、引き続き適用対象外となる。

また、企業規模要件についても今後段階的な縮小・撤廃が予定されている。2027年10月からは従業員36人以上、2029年10月からは同21人以上、2032年10月からは同11人以上へと適用対象が拡大され、2035年10月には要件そのものが撤廃される予定である。現時点で直接影響を受けない企業においても、将来的な制度変更を視野に入れた準備が求められる。

(3)企業に生じる主な影響

社会保険加入者の増加

最も大きな影響は、社会保険加入対象者の増加である。従来は賃金要件によって対象外となっていたパートアルバイト従業員の一部が、新たに社会保険へ加入することになる。また、企業規模要件についても今後段階的な縮小・撤廃が予定されており、対象となる従業員の範囲はさらに広がる見込みである。

・法定福利費の増加

社会保険料は労使折半であるため、加入者が増えれば企業負担も増加する。特にパート比率の高い業種では、法定福利費の上昇が経営に与える影響を事前に試算しておく必要がある。

・年収調整を目的とした就業調整の緩和

一方で、年収調整を目的とした就業調整の緩和が期待される。これまでは、社会保険の加入基準である月額88,000円(年収約106万円相当)を意識して労働時間や勤務日数を調整するケースがみられた。しかし、賃金要件の撤廃後は、昇給や勤務時間の増加によって基準額を超えることを避けるための調整を行う必要がなくなる。その結果、企業にとっては人材の活用や労働力確保につながる可能性がある。

(4)企業が今から準備すべき実務ポイント

①対象者の洗い出し

まず行うべきなのは、自社にどの程度の対象者が存在するのかを把握することである。

特に、週20時間以上勤務しているパートアルバイト従業員のうち、現在は賃金要件を理由に社会保険の適用対象外となっている従業員については重点的な確認が必要となる。

②人件費シミュレーション

加入対象者が増えれば企業負担も増加する。法定福利費の増加額を試算し、予算計画や人員計画へ反映させることが重要である。

③労働契約の確認

社会保険の適用判断では、週20時間以上勤務という労働時間要件が重要な判断基準となる。契約書や労働条件通知書の内容が実態と一致しているかを確認し、必要に応じて見直しを行うべきである。

④従業員への説明

社会保険加入に対して不安を抱く従業員も少なくない。「手取りが減る」という側面だけでなく、以下のようなメリットについて丁寧に説明することが求められる。

勤怠管理体制の見直し

賃金要件の撤廃後は、週20時間以上勤務という労働時間要件が適用判定における主要な基準となる。シフト管理や勤怠管理が適切に行われていないと、適用判定の誤りにつながる可能性があるため、システムや運用ルールの見直しも検討したい。

(5)国による支援策も活用したい

「106万円の壁」の撤廃に伴い、新たに社会保険へ加入する従業員が増えることで、企業には保険料負担の増加が見込まれる。こうした負担への対応を支援するため、国は社会保険の適用拡大に関連した助成制度を設けている。

代表的な支援策として、キャリアアップ助成金の「短時間労働者労働時間延長支援コース」がある。短時間労働者を新たに社会保険へ加入させるとともに、労働時間の延長などによって収入増加に取り組む事業主に対して助成が行われる。制度の活用によって、従業員の処遇改善と人材確保を同時に進められる可能性がある。

助成要件や助成額は変更される場合があるため、活用を検討する際は厚生労働省や都道府県労働局の最新情報を確認することが重要である。

(6)「106万円の壁」の撤廃に関するよくある質問

Q1.「130万円の壁」も同時に撤廃されますか?

撤廃されません。「130万円の壁」は被扶養者認定に関する基準であり、「106万円の壁」とは別制度です。

Q2.週20時間未満で働く従業員も加入対象になりますか?

なりません。週20時間以上という労働時間要件は維持されるため、週20時間未満であれば原則対象外です。

Q3.中小企業も対応が必要でしょうか?

必要です。将来的には企業規模要件の段階的な撤廃が予定されており、これまで適用対象外だった企業にも影響が及ぶ可能性があります。そのため、対象者の把握や人件費の試算などを早めに進めておくことが望ましいです。

Q4.従業員が社会保険への加入を希望しない場合はどうなりますか?

適用要件を満たした従業員は、本人の希望にかかわらず社会保険への加入が必要です。労使の合意によって適用を除外することはできません。

Q5.従業員への説明で最も重要なポイントは何でしょうか?

手取り額の減少だけでなく、将来の年金受給額の増加や傷病手当金などの保障拡充も含め、メリットとデメリットをバランスよく説明することが必要です。

(7)まとめ

「106万円の壁」の撤廃は、短時間労働者に対する社会保険の適用拡大をさらに進めるための制度改正である。これにより、従来の賃金要件は撤廃され、社会保険の適用判定は主に週20時間以上勤務という労働時間要件を基準として行われることになる。

企業にとっては、社会保険加入者の増加に伴う法定福利費の上昇が見込まれる一方、これまで賃金要件を意識した年収調整による就業調整の緩和が期待される。また、企業規模要件の段階的な撤廃も予定されていることから、現時点で影響が限定的な企業であっても無関係ではない。

今後は、対象者の洗い出しや人件費シミュレーション、労働契約の確認、従業員への説明などを計画的に進めることが重要である。併せて、国が設けている助成制度も活用しながら、制度改正への対応を進めていきたい。

社会保険の適用拡大は単なる法改正への対応にとどまらず、人材確保や職場環境の改善にもつながる可能性がある。制度の内容を正しく理解し、自社の実態に合わせた準備を早めに進めることが求められる。

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