建設業の社会保険加入義務とは? 背景・理由・未加入リスクを徹底解説
2025/12/24

建設業では、健康保険や厚生年金などの社会保険加入が法律で義務づけられている。しかし、実態として未加入の事業者も存在し、業界構造に起因する課題が背景にある。
本記事では、社会保険の概要を整理した上で、建設業における加入義務化の理由と経緯を解説する。さらに、制度上のポイントや国の対策を踏まえ、事業者が取るべき姿勢を明らかにする。
(1)社会保険とは何か?建設業に関係する制度の基本
社会保険とは、国民の生活を支える公的な保障制度の集合体である。広義では、健康保険、介護保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険の5つを指す。いずれも法律にもとづき運営され、労働者の病気やけが、失業、老後といったリスクに備える仕組みである。
特に、厚生年金と健康保険は、企業が従業員を雇用する際に必ず加入しなければならない制度である。これらは企業と従業員が保険料を折半で納付し、社会全体で支え合っている。社会保険は単なる制度ではなく、安定した労働環境を支える不可欠な基盤である。
(2)なぜ建設業で社会保険加入が義務化されたのか
建設業では、元請けから下請け、さらに孫請けへとつながる多重下請け構造が存在している。この構造下では、従業員を雇用していても社会保険に加入していない零細企業が少なくなかった。
社会保険料を支払わないことで人件費を圧縮し、保険加入企業より有利な条件で受注するケースも少なくなかったのである。そのため、不公平な競争や、労働者の保護が不十分なまま現場に出るといった問題が常態化していた。
(3)建設業における社会保険加入の重要性と未加入リスク
建設業では、社会保険への加入が単なる法令順守にとどまらず、経営基盤や将来の受注、さらには人材確保にも直結する重要な要素となっている。国土交通省は建設業における社会保険加入対策を重要政策として位置づけ、未加入業者に対する指導や是正措置を強化してきた。
加入していない場合、建設業許可や公共工事の受注で不利になるだけでなく、業界全体の信用も損なわれる。ここでは、建設業における社会保険加入の重要性を解説する。
・建設業許可や更新の手続きに必要
建設業を正式に営むには建設業許可が必要であるが、その取得や更新の際には労働保険の加入状況が問われる。具体的には、雇用保険や労災保険の加入を示す「労働保険番号」の記載が申請書類に必要である。
さらに、厚生年金保険および健康保険の適用事業所であるかどうかも確認され、未加入であれば許可要件を満たせない事態にもなり得る。このような背景から、社会保険未加入のまま事業を継続しようとしても、許可の更新で排除される可能性が高まっている。
つまり、制度として社会保険加入は建設業を営む最低条件に位置づけられているのである。
- ※参考:[国土交通省]建設業の許可
・公共工事受注のための必須要件
地方自治体や政府機関が発注する公共工事では、入札参加の要件として社会保険への加入が明記されている。これは、受注業者に対して法令順守を求めると同時に、労働者の処遇を守る目的がある。
建設業者が入札に参加するには、雇用保険、健康保険、厚生年金のすべてに加入している必要がある。未加入であれば入札資格そのものが認められず、公共事業から排除される。
このように、社会保険に加入していないだけで、安定的な受注の機会を失うことになり、経営上の損失も避けられない。公共工事の参入には社会保険への加入が絶対条件である。
・人手不足問題への対策
建設業界は慢性的な人手不足に直面しているが、その一因として「社会保険加入率が低い」というイメージが根強い。特に、若年層は安定した雇用や将来への備えを重視する傾向が強く、社会保険が完備されていない職場を敬遠しがちである。
企業側が社会保険に加入していない場合、若者から選ばれず、高齢化や技術継承の断絶といった深刻な問題に直面するだろう。反対に社会保険を整備していれば、労働環境の透明性や将来の見通しが確保され、就労者の安心感にもつながる。
人材確保の観点からも、社会保険への加入は不可欠な施策である。
(4)社会保険加入義務がある事業者の条件
社会保険の加入義務は、事業者の形態や規模によって内容が変化する。特に、建設業においては、法人か個人事業主か、雇用している人数が何人かによって義務の有無や範囲が決まる。制度を正確に理解していなければ、無意識のうちに法令違反を招く恐れがある。
ここでは、法人企業と個人事業主それぞれの立場における社会保険の加入義務を整理する。
・法人企業
法人企業である以上、社会保険の加入は事業規模や従業員数に関係なく義務づけられている。たとえ役員1人だけの法人であっても、健康保険と厚生年金保険へ加入しなければならない。
さらに、従業員を1人でも雇っていれば雇用保険の適用も必要になる。株式会社や合同会社など法人格を持つ事業者は、設立と同時に社会保険の加入義務が発生する。
これは、法人が社会的な信用と法的責任を負う存在であることに起因している。社会保険に未加入の場合、行政処分や許可取り消しにつながる場合もあるため注意が必要である。
・個人事業主
個人事業主の場合、法人のような一律の加入義務は存在しないが、雇用形態や従業員の数によって義務の内容が異なる。一般的に、家族以外の従業員を一定数以上雇っている場合には、法人と同等の保険加入が求められる。
反対に、一人親方や従業員が少数の場合には、国民健康保険や国民年金での対応が必要である。以下では、従業員数に応じた保険の取り扱いを解説する。
‐働き手が5人以上の場合
個人事業主でも、常時5人以上の従業員を雇っている場合は、社会保険の強制適用事業所に該当する。この場合、健康保険および厚生年金保険への加入が義務となり、雇用保険にも加入しなければならない。
従業員の生活を保障する観点から、制度上は法人企業と同じ扱いになるため、保険料の半額は事業主が負担する必要がある。社会保険の整備は、従業員の定着率や信頼性向上にも直結するため、義務であると同時に事業安定のかなめである。
‐働き手が4人以下の場合
従業員が4人以下の場合は、厚生年金や健康保険の強制適用事業所には該当しない。そのため、事業主および従業員は原則として国民健康保険と国民年金へ加入する。ただし、従業員が一定の条件を満たす場合には雇用保険への加入が必要になる。
小規模事業所であっても、労働者を雇っている以上、雇用保険への対応は避けられない。制度を正しく理解せずに放置していると、将来的な行政指導や保険未加入に関するトラブルを招く可能性がある。
‐事業主や一人親方の場合
建設業では、現場ごとに仕事を請け負う「一人親方」と呼ばれる事業者も多く存在する。この場合、常用の従業員を雇っていないため、雇用保険には加入できない。一人親方や個人事業主自身は、国民健康保険または国民健康保険組合、そして国民年金に加入する。
法人と異なり、事業主が自分自身の保障を確保する仕組みとして、これらの制度が用意されている。建設国保など専門的な制度を利用することで、より手厚い保障を受ける選択肢もある。
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