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建設業での派遣労働者は法令違反? 違反となる業務の詳細と代替制度についても解説

2025/11/19

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建設業での派遣労働者は法令違反? 違反となる業務の詳細と代替制度についても解説

建設業界では人手不足が深刻な課題になっており、人材確保の手段として「派遣労働」の導入を検討する企業も少なくない。しかし、建設現場での派遣労働者の利用は、原則として法令により禁止されている。

本記事では、労働者派遣と請負契約の違いを整理した上で、建設業における派遣禁止の理由や、代替となる制度について詳しく解説する。建設業界に携わる企業や担当者にとって、法令順守と安全管理を両立するための重要な知識になるであろう。

(1)労働者派遣とは? 請負契約との違い

企業が外部の人材を活用する手段には、主に「労働者派遣」と「請負契約」が存在する。一見似たように思えるこの2つの契約形態は、雇用関係や指揮命令の在り方に明確な違いがある。

働く人にとっても、受け入れる企業にとっても、この違いを理解することは非常に重要である。ここでは、それぞれの契約形態の特徴を整理し、その相違点を明確にする。

・派遣契約

派遣契約とは、派遣元事業主と派遣先事業主との間で締結される労働者派遣契約を指す。派遣されるスタッフは派遣元と雇用契約を結んでいるため、雇用主は派遣元になる。

ただし、実際に就業するのは派遣先であり、日々の業務についての指示は、派遣先が直接行う。つまり、スタッフを雇用しているのは派遣元であるが、働く現場での指揮命令は派遣先が担うという、特殊な三者関係が成り立っているのである。

スタッフにとっては、就業する場所と雇用主が異なるという点が、大きな特徴である。

・請負契約

請負契約は、発注者と請負事業者の間で請負契約を結ぶことを指す。請負事業者のスタッフが発注企業の現場で働くことがあっても、指揮命令権は請負事業者に属する。

つまり、スタッフの雇用主は請負会社であり、給与支払いから指揮命令まで、請負事業主が担うという仕組みである。これは、派遣契約との大きな違いの一つと言える。

(2)建設業務で派遣労働者は認められていない

建設業界では人手不足が深刻な課題となっているが、労働者派遣を活用することは原則として認められていない。特に現場での作業に関しては、安全管理などの観点から、派遣されたスタッフでは対応できないと判断されている。

建設業務の中には派遣労働が可能な業務も存在するが、それはあくまで例外であり、業務内容をしっかりと見極めた上での対応が求められる。ここからは、派遣禁止業務と、禁止されない業務について具体的に解説する。

・派遣禁止業務

労働者派遣法では、「土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体の作業又はこれらの作業の準備の作業に係る業務」は、労働者派遣の適用除外とされている。

具体的には、建築現場で資材を運搬したり、組み立てたりする作業、壁や床、天井などの塗装や補修、建造物などの解体、大型仮設舞台の設置、仮設住宅の組み立てなどが該当し、これらは派遣禁止業務とされている。

ただし、施工計画の作成や工程管理、品質管理といった作業は禁止されていない。

・派遣が禁止されない業務

建設業であっても、派遣禁止業務に該当しない業務であれば、派遣されたスタッフを活用できる。

例えば、「事務作業」「CAD/BIM/CIMオペレーター」「施工管理業務」が該当する。まず、事務作業は派遣されたスタッフの活用が認められている。建設会社のオフィスや、工事現場の仮設事務所での電話応対、書類整理などがこれにあたる。

ただし、事務職として派遣されていても、現場作業を兼ねることは認められていない。例えば、道具の整理や現場の簡単な掃除であっても、派遣の利用は禁止されているため、注意が必要である。

また、CADやBIM、CIMなどのソフトを使用して図面作成を行うオペレーターも、労働者派遣を活用できる。これらの作業はコンピューター操作であり、現場作業に直接従事しているわけではないからである。

さらに、施工管理業務も派遣が認められている。施工管理とは、施行計画を立て、その計画どおりに工事が進んでいるかを管理監督する仕事のことであり、現場作業に直接従事しないことが条件となる。品質や安全の管理を担う役割だが、実際に作業をするわけではない。

ただし、この職種でも、現場での軽作業であっても関与できないため、業務内容の管理が求められる。このように、建設業界における派遣の可否は、作業に直接関与しているかによって判断される。

人手が足りないからといって安易に派遣を活用するのではなく、法律に則った形で適切に人材を配置することが、企業にとってもスタッフにとっても重要である。

(3)なぜ建設業務で派遣労働者が認められていないのか

建設業界では、慢性的な人手不足が続いているにもかかわらず、派遣されたスタッフを現場に受け入れることは法律で原則禁止されている。

これは単なる規制ではなく、安全管理や雇用の安定といった観点から、必要不可欠な措置として位置づけられている。建設業界という特殊な職場環境の中では、派遣という働き方が抱えるリスクが、ほかの業界よりもはるかに大きくなる。

ここからは、建設業務で派遣スタッフが認められていない理由について、詳しく見ていく。

・派遣労働者の安全確保

建設業務は事故リスクが高い上に、同じ現場に元請け企業、下請け・孫請け企業のスタッフが混在する環境である。

派遣されたスタッフが加わると命令系統があいまいになり、労働災害(労災)のリスクが高まることにもつながりかねない。このような混乱があると、重大な事故が起こる可能性が高まる。

万が一、労災が発生した場合でも、責任の所在がはっきりしないケースが出てくる恐れがある。その結果、本人が不利益を被る事態に発展することが懸念される。

安全が最優先されるべき建設の現場では、こうしたリスクを回避するために、派遣という形態が認められていないのである。

・派遣労働者の雇用の安定

建設業界は受注生産が基本のため、安定した受注と労働力の確保が課題とされている。

派遣スタッフの参入を認めると、業務量の少ない時期に派遣切りが行われ、仕事を得られなくなる労働者が多数発生する恐れがある。こうした不安定な雇用を助長しないためにも、建設業においては派遣労働の導入を制限している。

(4)建設業独自の人材確保手段

建設業では、法的に派遣スタッフの活用が制限されているため、ほかの業界とは異なる方法で人材の確保が図られている。

その代替手段として、建設業界に特化した制度が整備されており、これらは労働力不足の解消や雇用の安定に貢献している。ここからは、その代表的な2つの仕組みについて紹介する。

建設業務有料職業紹介事業

建設業務有料職業紹介事業は、労働力を必要とする建設事業者と、仕事を求める人材を有料でマッチングする制度である。労働者派遣とは異なり、雇用期間に定めがないので、安定した雇用が期待できる。

建設業務労働者就業機会確保事業

建設業務労働者就業機会確保事業とは、制度に参加する事業主の間で、ほかの事業者の建設業務に一時的に従業員を送り出す制度である。特徴的なのは、雇用関係が元の事業者において維持される点にある。

つまり、従業員は元の会社に在籍したまま、ほかの建設事業者の業務に一時的に従事する形式となっている。

(5)まとめ

建設業界では、法的な制限により派遣労働の活用が厳しく制限されている。これは、安全管理や雇用の安定性といった観点から、建設業界の特殊性を踏まえた措置である。

派遣禁止業務と許容される業務の違いを正しく理解し、適切な人材確保の手段を選択することが重要である。代替手段としては、建設業務有料職業紹介事業や建設業務労働者就業機会確保事業など、業界特有の仕組みが存在している。

これらの制度は、法令を順守しつつ、現場の安全と雇用の安定を両立させるための一助になるものである。

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