建設業の有給休暇取得率が低い理由とは? 取得率向上を図る仕組みを4つ紹介
2025/12/3

建設業における有給休暇の取得率は60.7%であり、最も取得率が高い鉱業・採石業・砂利採取業とは、10.8ポイントの差がある。
建設業の有給休暇の取得率が低い理由としては、自動的に組まれていく工事スケジュールや業界的な人手不足が有給休暇の取りづらさにつながっている。
大幅な業務フローの改善や十分な人材確保は長期的に取り組む施策として必要だが、本記事では、有給休暇の取得率向上を図るためのファーストステップとして取り組みやすい仕組みを中心に4つ紹介する。
(1)建設業における有給休暇の取得率は60.7%
厚生労働省の「令和6年就労条件総合調査」によれば、全業種の有給休暇取得率は65.3%である。建設業は60.7%、鉱業・採石業・砂利採取業が71.5%で最も高く、宿泊業・飲食サービス業が51.0%で最も低い。
この結果から、建設業における労働者の有給休暇の取得率は低すぎるわけではないが、取得率改善の余地があると考えられる。
(2)なぜ建設業の有給休暇の取得率は低いのか
前述のとおり、直近の調査では建設業における有給休暇取得率は、平均値を少し下回る結果だった。しかし、時間をさかのぼると建設業における有給休暇取得率は低い数値を推移しており、2018年に公布された「働き方改革関連法」をきっかけに改善が図られてきたと言える。
ここでは、建設業における有給休暇の取得率が低い要因について見ていく。
・発注者側の予定でスケジュールが組まれる
1つ目の要因は、工事スケジュールは発注者側の予定を元にスケジュールが組まれることだ。
発注者側が示す納期に合わせて工事スケジュールが組まれていくため、建設現場に従事する労働者は、自分の都合で休みや連続した休暇を取りづらい。
・人手不足や短い工期などの重なる負荷
2つ目の要因は、人手不足や短い工期などによる重なる負荷である。
労働人口の減少や納期に間に合わせるために、状況によっては休みを返上して働くといった建設業へのマイナスイメージから、ワーク・ライフ・バランスを重視する求職者から敬遠され、人手不足が助長されている。
加えて、発注者側から示される短い工期に応えるために労働日数が多かったり、長時間労働が増えたりといったことから、有給休暇を取れない場合もある。
・建設業界は中小企業割合が99.9%
3つ目の要因は、建設業界における企業の99.9%が中小企業であることだ。
建設業界には、スーパーゼネコンや大手企業を一次請けとして、二次請け、三次請けといった多重下請け構造がある。一次請けに入るスーパーゼネコンや大手企業の割合は建設業界においてわずか0.1%である。
一方で、99.9%は二次請け、三次請けの下請けを構成する中小企業で成り立っている。また、企業規模が小さく、経営者が年配であるほど、「休む=売上減」といった従来の考え方が強い傾向にある。
さらに、企業規模が小さい場合、そもそも人材が多いわけではないため、一人ひとりの役割が多く、休みが取りづらいといったことがあると推測できる。
(3)企業が知っておくべき有給休暇の3つの基本
建設業界において、有給休暇が取りづらい現状があることを紹介した。しかし、有給休暇は労働者の権利であり、働き方改革関連法の公布により企業においては、労働時間の是正や多様で柔軟な働き方の実現に向けた取り組みが進められている。
ここでは、企業が知っておかなければならない、有給休暇の基本について見ていく。
・有給休暇の付与日数
1つ目の基本は、有給休暇の支給日数である。有給休暇は、一定期間継続して勤務している労働者に企業が決まった日数を付与することが労働基準法において定められている。
具体的には、雇用開始日から6カ月間継続勤務し、かつ、全労働日の8割以上で勤務した労働者に10日が付与される。以降は継続勤務年数が増えるごとに決まった日数が有給休暇として付与され、労働者は最高で年間20日の有給休暇の取得が可能である。
一方で、有給休暇には期限があり、付与されてから2年の間に取得しなければ、付与日が古い有給休暇から消滅する。
・有給休暇の取得により給与を減額してはならない
2つ目の基本は、労働者が有給休暇を取得しても給与を減額してはならないことである。
有給休暇は、文字どおり「給与が発生する(有給)」休暇であり、労働者が有給休暇を申請し取得した場合、それは欠勤ではないので、給与の減額対象にしない。
もし、有給休暇を取得した分を欠勤扱いにして給与から減額するような対応をした場合、違法とみなされる可能性がある。そのため、企業は有給休暇を適切に処理しなければならない。
・年5日の有給休暇を取得させることは企業の義務である
3つ目の基本は、企業は労働者に年5日の有給休暇を取得させなければならないことである。
これは、2019年4月に施行された働き方改革関連法により定められた。この義務化は、労働者の心身のリフレッシュを図ること、また、有給休暇を取得しづらい労働環境にいる労働者が有給休暇を取得しやすくするためのものである。
もし、年次有給休暇が10日以上付与される労働者に対し、年5日の有給休暇を取得させなかった場合、労働基準法第39条第7項違反となり、同法第120条にもとづき、対象労働者1人につき30万円以下の罰金が科される可能性がある。
(4)有給休暇を取得しやすくする仕組み
企業は労働者に年5日の有給休暇を取得させる義務があるが、個人の都合や有給休暇の取得状況を把握するのは容易ではない。
そこで、有給休暇の取得率向上につながる仕組みづくりや、すぐに取り入れられる取り組みについて見ていく。
・勤怠管理システムで取得状況を可視化する
1つ目は、勤怠管理システムを活用して取得状況を可視化することである。
勤怠管理システムに蓄積されたデータにより、有給休暇の取得日数を把握できる。また、残業時間の把握も可能なので、そのデータを元に、労働時間の適正な管理や業務量の偏りなどのチェックを行うことができる。
・有給休暇の取得奨励日を設ける
2つ目は有給休暇の取得奨励日を設定することである。
ゴールデンウィークの時期や年末年始といった長期休暇期間の前後や飛び石連休のところに有給休暇の取得奨励日を設定するのが良い。
期初に会社の年間カレンダーに有給休暇の取得奨励日を入れておくことで、労働者は先のスケジュールを組み立てたり、同じ現場や部門の人同士で有給休暇の取得日がかぶらないように事前に調整したりすることができるようになる。
・上司や人事担当者が声掛けを行う
3つ目は、上司や人事担当者が声掛けを行うことである。
勤怠管理システムのデータを活用して、有給休暇の取得が進んでいない人や残業時間が多い人がいないかを確認する。
例えば、人が少ない、繁忙期等で休みを申請しづらいと感じている労働者がいた場合、上司や人事担当者から声を掛けてもらうことで、有給休暇を申請しやすくなるだろう。
・業務にITを活用する
4つ目は、業務にITを活用することである。
建設現場においては、工程表や仕様書を含めて紙の資料や契約書が多く存在する。紙での管理・保管はスペースの問題や情報管理面でリスクを伴う。
そこで、情報のデジタル化を進め、タブレットやスマートフォンを使用してデータを確認できるようにすれば、業務の生産性向上や効率化を図れるはずである。
(5)まとめ
建設業界は発注者のスケジュールに合わせて工事スケジュールが組まれ、また、案件によっては短い工期により、労働者が有給休暇を取得しづらい状況がある。一方で、企業は、労働者の心身の健康維持のためにも、有給休暇の取得をしっかり促さなければならない。
そのためには、勤怠管理システムのデータを活用して、まず現状を把握することだ。どのくらいの労働者が有給休暇を取得できているのか、部門や現場ごとに取得状況に違いがないか、などデータをもとにすることで、改善ポイントの洗い出しができる。
現状を把握した上で、どのような取り組みが必要かを検討するべきである。職場環境的に申請しづらさがあるようであれば、有給休暇の取得奨励日の設定や上司・人事担当者からの声掛けを強化するのも有効だ。
一足飛びに有給休暇の取得状況の改善を図ることは難しいが、いま利用している勤怠管理システムのデータ活用や有給休暇の取得奨励日の設定、上司・人事担当者からの声掛けなどはすぐに始められることである。また、ITの活用は業務フローの改善に直結するため、業務内容に応じた導入を検討することが重要である。
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