医師の働き方改革の現状は? 課題と対応策を調査結果から解説
2026/7/8

2024年4月から医師の働き方改革が本格施行され、医療機関には時間外労働の上限規制への対応が求められている。長年にわたり課題とされてきた医師の長時間労働に対して、法的な規制が明確に適用されたことで、医療現場の労務管理は大きな転換点を迎えたと言える。
制度導入から2年以上が経過した現在、多くの医療機関では勤怠管理体制の整備や勤務実態の可視化が進み、一定の制度対応は進展している。一方で、従来の医療提供体制は長時間労働に依存する側面も強く、単純な労働時間の削減のみでは対応が難しい構造的課題も浮き彫りとなっている。
特に、地域医療や救急医療の現場では、医師不足と制度対応の両立が大きな負担となっており、医療提供体制そのものへの影響も顕在化し始めている。
本記事では、2025年に実施された調査結果をもとに、医師の働き方改革の現状と課題を整理した上で、今後求められる対応の方向性について解説する。
(1)医師の働き方改革とは何か
医師の働き方改革とは、医師の長時間労働を是正し、健康確保と持続可能な医療提供体制の両立を目的とする取り組みである。医療は公共性の高いインフラである一方、医師個人の過重労働に支えられてきた側面があり、その是正は長年にわたる政策課題であった。
2024年4月からは時間外労働の上限規制が適用され、原則として年間960時間(A水準)までに制限されている。この水準は一般労働者と比べてもなお高い水準に設定されているが、医療提供体制への影響を考慮した段階的な是正措置として位置づけられている。
一方で、救急医療や地域医療を担う医療機関などに対しては、例外的に年間1,860時間までの時間外労働を認めるB水準、連携B水準や、医師の研修・技能向上を目的としたC水準の特例が設けられている。これらの制度により、現場の実情に配慮しつつ改革を進める枠組みが整備されている。
ただし、こうした特例は恒久的なものではなく、将来的にはA水準への収束が前提とされており、医療機関には中長期的な体制見直しが求められている。
(2)医師の働き方の現状(2025年調査から見る実態)
調査段階では制度施行から約1年が経過し、医療機関では初期対応を終えた上で、運用面での課題に向き合うフェーズに入っている。2025年6月から7月にかけて実施された医療団体の調査(回答818病院)によれば、制度対応の進展とともに、その影響も徐々に明らかになっている。
・労働時間規制への対応は一定程度進展
医師の時間外・休日労働について、「A水準」に該当すると回答した医療機関は92.7%に上っている。この結果は、多くの医療機関で制度に沿った労働時間管理が実施されていることを示している。
もっとも、この数値はあくまで区分上の対応状況であり、実態としての業務負荷や逼迫(ひっぱく)度とは必ずしも一致しない可能性もある。制度上の基準を満たしつつも、現場では業務の効率化や役割分担の見直しを継続的に求められている状況である。
・労務管理体制の整備が進む
宿日直許可を取得している医療機関は74.2%と、前回調査(2024年)から増加している。宿日直勤務は従来、労働時間としての扱いがあいまいな部分も多かったが、制度施行後はその適正化が強く求められている。
この動きは、単に許可取得にとどまらず、宿日直業務の範囲や負担の明確化、勤務実態の見直しにつながっており、労務管理の精度向上につながっていると言える。
・医師派遣の見直しが一部で進行
医師派遣に関しては、「派遣の中止・削減の連絡を受けた」とする医療機関が21.3%と、前回調査と比べて12ポイント増加している。これは、派遣元医療機関においても労働時間規制への対応が求められる中で、従来のような柔軟な人材供給が難しくなっていることを示している。この変化は個々の医療機関にとどまらず、地域医療体制全体に影響を及ぼす可能性があり、今後の動向が注視される。
(3)医師の働き方改革後に起きている変化
制度対応の進展に伴い、医療現場ではこれまでとは異なる運用や業務構造の変化が見られるようになっている。
・労務管理の高度化
勤怠管理システムの導入や36協定の適正運用など、法令順守を前提とした労務管理体制の整備が進んでいる。特に、客観的な労働時間の把握が必須となったことで、従来の自己申告ベースの管理からの脱却が進んでいる。
また、宿日直業務の範囲やオンコール対応の位置づけの整理など、これまで運用に委ねられていた部分についてもルール化が進み、管理の透明性が高まっている。
・タスク・シフト/シェアの推進
医師の業務負担を軽減するため、他職種への業務移管が現場レベルで進められている。診断書などの文書作成業務や、一定の医療行為の分担などを通じて、医師の業務の重点化が図られている。
ただし、単なる業務移管にとどまらず、人材育成や役割定義の明確化が伴わなければ、別職種への負担集中を招く可能性もあり、組織的な設計が重要となる。
・医療DXの活用拡大
業務効率化の手段として、医療DXの活用も加速している。電子カルテの利便性向上やオンライン診療の活用に加え、AIによる診断支援や遠隔コンサルテーションの導入など、診療プロセスそのものの見直しにもつながっている。
これにより、単なる労働時間削減ではなく、業務の質と効率の向上を両立させる取り組みが進みつつある。
(4)医師の働き方改革に立ちはだかる課題
制度導入により労働環境改善は進みつつあるが、その一方で新たな課題も顕在化している。
・医療提供体制への影響
調査では、「宿日直体制の維持が困難」と回答した医療機関が71.0%に上っている。さらに、「救急医療体制の縮小・撤退」が67.2%と高い割合で指摘されている。
これらは、労働時間規制が医師個人の負担軽減に寄与する一方で、医療サービスの提供量や対応範囲に影響を及ぼす可能性を示している。
・医師派遣の縮小と地域医療への波及
派遣医師の減少は、特に地方において深刻な影響を及ぼす。大学医局などからの派遣に依存していた医療機関では、診療体制の維持そのものが困難となるケースも想定される。
この問題は個別最適では解決が難しく、地域単位での医療資源の再配置や連携強化が不可欠となる。
・制度対応と人材不足の両立
時間外労働の上限が設定されたことで、従来と同じ人員配置のままでは業務が回らないケースも生じている。しかし、医師の確保は容易ではなく、短期的な人材補充による解決には限界がある。
そのため、業務の効率化や役割分担の見直しを含めた構造的な対応が求められる。
・労働時間管理の複雑さ
宿日直、オンコール、副業・兼業など、医師特有の働き方により、労働時間の定義と把握が複雑である点も課題である。特に複数の医療機関で勤務する場合の通算管理は難易度が高く、実務上の負担も大きい。
(5)今後の展望
・2035年を見据えた制度移行
B水準、連携B水準は2035年度末での終了が予定されており、その後は原則としてA水準への移行が求められる。これは、長時間労働を前提としない医療体制への転換を段階的に実現するための措置である。
・持続可能な医療体制への転換
長時間労働に依存しない医療体制の構築に向けては、以下の取り組みが不可欠である。
- ‐医師・医療職の人材確保と適正配置
- ‐タスク・シフト/シェアの実効性向上
- ‐医療DXのさらなる活用と定着
- ‐地域医療連携の強化と機能分担
これらを単独で進めるのではなく、相互に連動させながら推進することで、制度対応と医療提供体制の維持を両立していく必要がある。
(6)医師の働き方改革の課題と展望についてのよくある質問
Q1.医師の働き方改革によって医療の質は低下するのでしょうか?
一概に低下すると断定することはできませんが、一定の影響が生じる可能性は指摘されています。特に医師数が限られる医療機関では、労働時間の制約により診療体制の見直しが必要となり、外来診療時間の短縮や救急対応の制限といった対応が検討されるケースもあります。
一方で、タスク・シフト/シェアや医療DXの活用を進めることで、医師の業務負担を軽減しつつ医療の質を維持・向上させる取り組みも進んでいます。制度の影響は医療機関の体制や取り組み状況によって大きく異なるため、単純な時間削減ではなく業務構造の見直しが重要です。
Q2.医師不足と働き方改革は両立できるのでしょうか?
現状では容易ではなく、多くの医療機関にとって重要な課題です。医師の働き方改革は労働時間の上限を設ける制度ですが、医師不足は解消されておらず、従来と同じ人員で業務を回すことが難しくなっています。
特に地方や救急医療を担う医療機関では、医師の確保が難しい中で制度対応を進める必要があり、負担が大きくなります。そのため、今後は医師の確保に加え、タスク・シフト/シェアの推進や医療機関間の役割分担の見直しなど、構造的な対策が欠かせません。
Q3.今後、医療機関に求められる対応は何ですか?
今後は、制度への形式的な対応にとどまらず、長時間労働に依存してきた従来の医療体制そのものを見直す視点が求められます。具体的には、医師が担う業務の範囲や自院の役割を整理し、限られた人材で持続可能な体制へ移行していくことが重要です。
また、改革を一時的な負担としてではなく、中長期的な運営課題として捉える必要があります。2035年に向けては例外的な時間外労働が縮小されるため、段階的に構造的な見直しを進めるべきでしょう。
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